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2007.05.02

冒険の国

20070413_007 かつて強く結ばれたはずの絆。こびりついた記憶。それらは、どれほどの月日が経とうとも、時代が変化しようとも、いつまでもどこまでも、人を悩ませる。そうやって時の流れから取り残された人々の、鮮明なる記憶が病巣のように広がって、心の奥底までも侵食してしまう。桐野夏生著『冒険の国』(新潮文庫)は、一人の死をきっかけに、永遠なる空白を抱えたまま、時をなくしたかのように生きている人々が描かれている。誰もその死に触れないまま、触れられないまま。物語の舞台は、ディズニーランドが建設されたばかりの街で、急速に発展してゆくことに心乱される昔から暮らす人々と、新しく街に住まいを求めてきた人々との微妙な立場の違いを描いている。

 いつからか、互いのことを意識していた、姉妹と兄弟。姉と兄、妹と弟はそれぞれ同級生同士で、とりわけ弟の英二と妹の美浜は、双子のように深い絆で結ばれていたはずだった。だが、英二は突然自殺し、その死をめぐって周囲では身勝手な噂が飛び交い、半ば逃げるようにして美浜は街を離れることになる。やがて、美浜は生まれ育った街に帰ってくるものの、街は変わり果てた姿をしていた。そんな頃、英二の兄である、恵一と再会となる。過去の出来事に囚われながら生きる人々と、最先端を生きる人々と街。その境界で痛々しいまでに人間の内面をえぐり、癒えることをしらない疼きが、読み手を掴んで離さない。また、マンション内での人間関係もなかなか深く現実的である。

 そういう、人間関係において、“あなたがたの楽しみは同時に他人の苦しみなのです…”という文章が出てくる。美浜の家族が住む、すぐ上の階の住人が誰かから受け取ったメモの一部である。マンション内で他の住人から浮いている美浜とその家族たち(30過ぎた大人の4人暮らし)は、小さな子どもを抱える夫婦たちばかりのマンションでは、異質だ。そのせいなのか、なかなか子どもができない上の住人は、周囲からの視線に怯えていたのだった。また、美浜の働いている会社のテナントの住人や、大家との関係性にも振り回されて、人間関係の渦に呑まれてゆく美浜である。その一方で、マイペースに暮らす美浜の両親。誰かの楽しみは、本当に誰かの苦しみなのだろうか。さてはて。

410130632X冒険の国 (新潮文庫)
桐野 夏生
新潮社 2005-09

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冒険の国posted with amazlet on 06.02.01 桐野 [続きを読む]

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