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2007.05.16

天然理科少年

20061121_009 ほんのつかのまの出来事で、少年は大人になる。大人となった今では、とてもはかりしれないくらいのスピードで。だから少年は気づかない。その時に学んだ多くのことを。少年という時間が限られているように。ただぎゅっと、手のひらに握ったことだけを、懸命に刻み込もうとするから。長野まゆみ著『天然理科少年』(文春文庫)には、わずか3日間の出来事が描かれている。出会いと別れ。その時間はあまりにも短く、そして濃い。古くから土地にのこる伝承と、幻の湖の話。また、離ればなれに暮らす家族にも、確かに流れている血のようなもの。いわゆる繋がり。さまざまなことが絡まり合って、結びついて、胸に残るのは、ほんのりとあたたかな思いである。

 中学2年の岬は、放浪癖のある父親と共に、転校を繰り返しながら暮らしている。その秋にたどり着いた山間の小さな町で、正体のわからない小柄な少年・賢彦に出逢い、今までにない心地になる。通うことになった中学では、リーダー的存在の北浦を中心にして、周囲は賢彦を避けるようにしていた。話によると、忽然とあらわれる幻の湖での出来事がきっかけらしい。どうやら神隠しに遭い、2年後にふらりと元の姿で戻ったらしい。賢彦の存在が気になる岬は、彼を訪ねてみることにするのだが…。謎めいて見える物語が真実を紡ぎ出すとき、少年たちの心持ちが明らかになる。岬のきらめくような成長過程がなんだかとてもほっこりくる展開だ。

 この物語の少年・岬。なかなかいいのだ。わたしの身勝手なイメージでは、表紙の少年なのだけれど…さてはてどうなのだろう。そして、この岬の父親もいいのだ。物書きで、気まぐれにあちこちを転々としているようで、実はいろいろ裏がありそうな感じがする。その秘め具合がいいなぁと思ってしまった。また、この父があり、この息子がある、という感じで、いいコンビネーションを保っているところも見逃せない。さりげない心配りも、いくら親子とはいえ、必要不可欠なのだと、読みながらしみじみと思ったわたしだ。だから、この物語は、少年の成長の物語であると同時に、親子の絆、家族の絆を描いた物語でもあるような気がしている。

4167679485天然理科少年 (文春文庫)
長野 まゆみ
文藝春秋 2005-08-03

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