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2007.04.26

夕映え少女

20070226_012 ひんやりとした手触りで、哀しいほどに美しくて。少女という限られた年月が、たまらなく愛おしくて。女でもなく、もちろん男でもなく、かといって子どもと呼ぶには多くの憂いを含みすぎていて。だから少女は、あくまでも少女という器のまま、無垢で高慢で在り続けていた。そうできる時間を深く噛みしめるように…。川端康成著『夕映え少女』(新風舎文庫)。とりわけ心惹かれる表題作は、微妙な年頃の少女の心情を鮮明に描き出している。その起伏のある思いも、あるがままに。少女の見ている光景をつぶさに捉え、読み手の目をぐいぐいと誘うのだ。収録されている七つの短編はいずれも、女性・少女を描いた作品で、物語の端々に著者自身の翳りが見られるように感じられる。

 少女の心情を捉えた作品は表題作の他にもいくつかあるのだが、一番はじめに収録されている「むすめごころ」では、なんとも複雑な心持ちを思わずにはいられない。咲子という少女が、静子という少女への思いの丈を紡いだ手紙を通じて、わたしたちはその揺れ動く心情を知るのである。親しい青年は、自分よりも親友にこそ相応しいと思い、譲るのであるが、二人が結婚にまで至ると、なんだかやるせないような、心苦しいような思いに包まれる、というもの。これは、素直になれない心の裏返しだろうか。二人の幸せを何より望んでいた少女が、自分の想いに気づいたときは、遅かった…という。淡く滲んだ、なんとも切ない少女の恋心かな。そうして思わず、初恋を思い出してしまう。

 そして、これまた淡い恋心を感じさせる「イタリアの歌」。ある大学の実験室にて起こった爆発事故の、衝撃的なシーンからはじまる物語である。火傷を負った博士と女助手。もう手遅れの博士に対して、女助手はわりと軽症であり、周囲の人々はその関係性を様々に噂する。女助手の心情が明らかでない分、その内面の激しさを読み手はぞくぞくっと始終感じてしまう。そして、物語の主人公は博士だったはずなのに、女助手の方へゆらゆらと惹きつけられるから、なんとも不思議である。ふいに女助手が口ずさむ“イタリアの歌”は、哀しみを必死に耐えるようにも思われ、ラストシーンまで胸を締めつけるよう。刻銘に描かずとも伝わる心情があることに驚かされた作品だった。

 表題作「夕映え少女」。タイトル通り、絵画的な作品であり、夕映えのごとく美しい少女と静養している少年の関係と、それをつぶさに知る女中の存在と、少女の美しさに惹かれて絵を描いた貧しい画家の存在が、順々に絡み合い、面白い構図を作りあげている。物語の語り手である男性の視点は、著者本人に重なり、ふくらみを増すようでもある。物語の中心になるのは、少女を描いた絵。それゆえ、読み手であるわたしたちは、その夕映えの少女像を脳裏に深く思い浮かべてしまう。夕映え。その色をいつかどこかで見かける日。きっと、この物語を思い出すのだろうと思う。そして、少女だったかつての日々を、今以上に懐かしんで愛おしく感じられる気がする。

4289500013夕映え少女 (新風舎文庫)
川端 康成
新風舎 2006-06

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