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2007.04.28

いつか、僕らの途中で

20050325_021 手紙らしい手紙を書かなくなって、どれくらいの時が経っただろう。かつて、なぜか文通というものが流行っている時期があり、そういうペンフレンドというものは、今のメル友よりも、なんとなく親密な感じがしたものだった。わりとすぐに返事が返ってくる近頃のメールに対して、手紙というものは相手に届いていない、届く途中の、空白の時間が確かに存在している。その間、それぞれに流れる時間というものがあって、なんだか妙に心待ちで、そわそわウキウキしたりして、何気ないことが特別に思えるものだったりする。柴崎友香、田雑芳一著『いつか、僕らの途中で』(ポプラ社)に描かれた物語には、そんな懐かしい記憶を呼ぶ。そして、たわいもない日常をほんの少し柔らかにしてくれる。

 山梨に暮らす、教師をしている<僕>と、京都に暮らす、大学院生の<わたし>。二人の関係は、どうやら大学時代の友人らしいが、その他のことはよくわからない。<僕>から<わたし>へ。<わたし>から<僕へ>…そうやって繰り返される手紙のやり取りが、そのまま物語になっている。それに加えて、それぞれの手紙が読まれている時間や、書かれている時間を意識させる、スケッチのような絵が、もうひとつの物語を展開させてゆく。ふたつの物語は短いけれど、あたたかに紡がれる春夏秋冬であり、その移り変わりと共に、ふたりの関係も徐々に変化してゆくようだ。相手を思いやるささやかな一言。ごくごくありふれた一言。そういうものに、自然と包まれる心地がする。

 また、山梨と京都、と離れて暮らすふたりが“うん、会おう”と言い合って、会うところが印象的だ。これまで文字を通じて(ときどき電話でも話すが)語られてきた、様々な景色や出来事を、今度は共有する時間の中で、寄り添って同じ景色を見るのだから。そして、ふたり並んで歩く姿は、こちらまでほんわかしてくるほどに、快い。ふたりの関係に根ざす、透き通るような色彩、清潔で素直な心、ほどよく力を抜いた佇まいは、わたしの想いをそっと撫でるようにすら思えるのだ。手紙を書こう。そう思い立ったわたしの、キーを叩く指先は、どことなくそわそわウキウキとしながら、懐かしい感覚を甦らせる。手紙を書こう。指先はキーを弾いて、ペンを持ちたがっている。

459109149Xいつか、僕らの途中で
柴崎 友香
ポプラ社 2006-02

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