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2007.04.06

かもめ食堂

20070212_006 どこか世間の波に乗れていない人。孤独を深くまで知っている人。心に傷を負った人。自分を恥じながら生きることを知っている人…。そういう人たちが、わたしはとても好きである。親しみを覚えずにはいられない。いや、むしろその不器用さに、とても惹かれてしまう。だからこそ、胸に抱えた何かが誰かと共鳴したとき、わたしは感動を覚える。この世界にも奇跡は存在することを、喜んでしまう。群ようこ著『かもめ食堂』(幻冬舎)。この物語は、ある種の奇跡の物語だとわたしは思う。様々な出会い。そこに集う人々。そのたわいもない会話。穏やかに過ぎる日々。ゆうるりと流れる時間。人の存在のあたたかさ、そのぬくもりを、何だかそっと触れた心地になったのだった。

 物語の舞台はフィンランド。地理に疎いわたしは、フィンランドはもちろん、ヘルシンキという街にも、あまりピンとくるものがない。英語すらままならないわたしにとって、フィンランドの言葉など、もってのほかである。けれど、国や言葉や文化が違っても、そこで暮らす人々には、日本で暮らすわたしと同じように、流れる時間があり、生活があり、胸に抱えた何らかのものがあり、たわいもない言葉や、特別な変化のない日常などがあるのだと感じて、知らぬ間に親しみを覚えていた。そうだ、わたしたちはどこかで繋がっている。海も国境も越えて、確かに繋がっているのだ、と。それは当たり前のことながら、とても新鮮な気づきのように感じられた。

 「かもめ食堂」。それは、サチエがとてつもない方法(!)で開いた食堂だったが、はじめのうちはなかなか人が寄り付かない。小柄で幼顔ゆえに、「こども食堂」なんて呼ばれ方をするくらいに。それでも、ひっそりと営業するその姿勢は、サチエの人柄そのもののようで、なんだかほのかにあたたかい。そこへ、ミドリとマサコがひょんなことから加わって、店も少しずつ繁盛してゆく。ゆっくり。店の中を流れる時間のように。もちろん、そこまでに行き着くには、いろいろな出来事があるわけだが、なぜか全てがほのぼのとしている。ここは、喧騒や忙しさからは無縁なところ。何よりも登場人物たちの魅力。そういうものをまるごと読んで、味わい尽くせた1冊だったと思う。

4344010973かもめ食堂
群 ようこ
幻冬舎 2006-01

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コメント

ましろさん、こんばんは。
この作品、映画になっていますね!
レビューを見た時、なんとなく思い出して。

閑散としたお店の中、毎日通い始めた
お客との間に時々流れる会話・風に
人の温かさを感じられずには居られない。
フィンランドに行きたくなる様な
静かで良い作品でした。

投稿: とも | 2007.04.06 20:32

ましろさん

「かもめ食堂」は、銀座の小さな映画館で並んで見ました。ちょうと北欧がオシャレなキーワードになり始めた時期で、とても混んでいました。映画の出来もとても良かったのでまだでしたら是非ご覧下さい。同じ監督の「バーバー吉野」も面白かったです。DVDも出ています。
私は本の方はまだなので、機会があったらと思っています。
群さんは、今から20数年前に「本の雑誌」社でアルバイトをしていた時の女事務員さんでした。その頃からエッセイを「本の雑誌」の巻末に書いていました。何も知らない竹蔵は、「ねえねえ、木原さん(群さんの本名)、群ようこって面白いよね!」と言ってしまって、木原さんが
にこにこしながら「ふうーん」と返事をしてくれたことが懐かしく思い出されました。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2007.04.07 06:48

ともさん、コメントありがとうございます!
映画の方は、敢えてまだ観ていません。。。
原作を読んでからレンタルしようかなぁ…なんて、
甘いことを考えているわたしです。
いつか観る機会が訪れる日を、楽しみにしたいと思います。

投稿: ましろ(ともさんへ) | 2007.04.07 17:14

竹蔵さん、コメントありがとうございます!
「バーバー吉野」も観なくちゃ、ですね。
そして何より、群さんと一緒に働いていたとは…!!!
驚きです。羨ましいです。わたしも話してみたかったです。
自慢気じゃないところがよいですね。
人柄も作品も好きになってしまいそうです。
貴重なお話を、どうもありがとうございました。

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2007.04.07 17:18

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昨年のベスト映画のひとつ「かもめ食堂」をDVDでも、見てしまいました。 フィンランドで日本の女性が食堂を開く、というただそれだけの話ですが、やっぱりいいです。 何がというと、ストーリー(これに関しては他の... [続きを読む]

受信: 2007.04.06 21:52

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