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2007.04.21

ぬるい眠り

20050223_007 どんなに深く葬り去ったとしても、どこかにこりっとしたしこりは残るものなのだと思った。ふと眠りにおちようとした瞬間だとか、ぼんやり佇んだ風景の中だとか…なんのことはない日常の1コマに、それはするりと入り込む。そして、いつまでもじくじくと疼いては、わたしを孤独にさせる。しばし無気力にもさせる。けれど、同時にそういう時間もなかなかどうして悪くないものだと、わたしに思わせたのは、江國香織著『ぬるい眠り』(新潮文庫)という1冊だった。かけがえのないもの。例えば恋であれ、友人であれ、他のものであれ、「葬り去る」イコール哀しみや孤独だけではないことを、伝えているから。しこりがいつしか糧になること。それを信じてみたいと思わせたのだった。

 表題作「ぬるい眠り」。これは、別れの物語である。恋人と別れても、冷静でいられるはずだった主人公の揺れ動く想いが、複雑ながら心地よく展開してゆく。別れてから、募ってゆく恋人への想い。そうして、生まれだした新たなる衝動。かなり強がりで、わがままなところが、なんだか妙に親近感を抱いてしまった。読みながら常に感じていたのは、嗚呼、この人は女の人なのだなぁということ。女の子でもなく、女性でもなく。やっぱり女の人というのが、しっくりくる気がしたのだ。少し哀しくて、ほんのりとあたたかで、あまりにも切ない。恋愛というのは、不毛なだけじゃなくて、たくさんの感情を引き出してゆくものなのだと、改めて知った気がした。

 続いては「清水夫妻」。主人公がひょんなことから知り合いになった夫婦は、なんとも風変わり。新聞の死亡欄をこまめにチェックし、見ず知らずの人の葬式に出かけてゆくことを常としている夫婦だったのだ。主人公が徐々に影響を受けてゆく様子が、とても可笑しい。物語の全体像としたら、すごくゆるりと流れる時間があって、そんな中でも伸びやかに成長する登場人物がいて、ほのぼのとした気持ちで読めてしまう。実はその裏に、人生における重大事項なんかも含まれているのだけれど、主人公はさらっと流してしまう。そこが、なんとも読んでいる側としては心地よくて、潔くて、頼もしくも思えて、わたしは純粋にいいなぁと思ったのだった。

 最後に「ケイトウの赤、やなぎの緑」。この物語は、著者の『きらきらひかる』の10年後を描いたもの。10年という月日の移り変わりが、じわじわと読み手に伝わってくる展開だ。『きらきらひかる』で主人公だった笑子と睦月は、ほんのり登場するだけの脇役になっているが、その存在感(特に笑子)は変わらないどころか、強まっている気がする。笑子と睦月の家に集う、ゲイの男たちとその姉らの、かけひきのようなやり取りにドキドキしながら、柳の木が出てくる結末で、深く頷ける物語。物語にも確かに時間が流れ、景色も人も変化してゆくということ。当たり前ながら忘れかけていた、そんな事実をこの物語に、こっそり教えられた気がしている。

4101339236ぬるい眠り
江國 香織
新潮社 2007-02

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コメント

 嗚呼、この人は女の人なのだなぁ、のくだり、とてもドキッとしました。そう書くあなたも、女の人? 女の子?
 江國さんの文章、実は苦手なのですが、くたびれていろのに眠れずにいる夜、このレビューを読み、とてもとても読みたくなってしまいました。

 ちなみに。ココログが携帯に完全対応したのですね!このコメントも、携帯からです。

投稿: あらき・おりひこ | 2007.04.23 00:19

あらき・おりひこさん、コメントありがとうございます!
携帯からこの長文を!恐縮です。

うーん、わたしはまだ、女の人になりきれていない気が・・・
判断するのはきっと、周囲の人たちなのだろうけれど。
もっといろいろな経験を積まねば、と思います。

投稿: ましろ(あらき・おりひこさんへ) | 2007.04.23 17:29

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