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2007.04.30

アンボス・ムンドス

20070109_021 東と西、表と裏、右と左、男と女。そして、天国と地獄。この世界にあるという、相反する無数の新旧ふたつの世界。或いは、両方の世界。それを意味する言葉、“アンボス・ムンドス”。桐野夏生著『アンボス・ムンドス』(文藝春秋)に収録されている7つの物語は、どれも人間の悪の部分を描いている。読み手にとっては決して不快ではない類の、むしろ、読み耽ってしまうような悪を。物語それぞれは、唐突にはじまり、唐突に締めくくられるのだが、心地よい余韻を残すのである。人は誰しも噂話に耳を傾けるものであり、悪意を抱く生き物であり、ひとつやふたつは秘密を抱え込んでいるものであり、何もない日常にストレスをためこんでいる。そんな気がした。

 表題作「アンボス・ムンドス」。人生で一度の思い出として、つじつまを合わせてキューバ旅行に出た、若い女教師と、その不倫相手である教頭。旅から戻ってきたふたりを待ちかまえるようにして届いた知らせは、生徒の死。そして、関係者や生徒からの、深く根ざす悪意の数々だった。この女教師は、生徒の死に疑問を抱きつつも、核心に触れることがなかなかできずにいる。それを独白という形式で、読み手に謎の処理を任せているのだった。ただの不幸話か、それとも運が悪い質なのか。けれど、女教師は年月を経ても、まだ粘り続けている印象が残る。ひとつの出来事が、人を変えてしまうこと。また、学校という組織への問題提起も、とても冴えているように感じた。

 それから、何ともぶるぶるっとなる物語「植林」。垢抜けない主人公は、綺麗で細い女たちから疎まれてきた。そんな中、主人公はとある大事件と、自分自身との関係性を思い出して、意気揚々となる。だが、自分自身が思いだした過去と、周囲が記憶している過去との違いに気づき、混乱してしまうのだった。年齢的にも家を出ることを急かされている身であり、主人公の行き場のなさがひしひしと伝わってくる。そう、主人公の彼女は、とても孤独である。かといって、上手に生きるすべを知らない。不器用にしか生きられない人である。彼女ほどではないにしろ、わたし自身にも共通するものを感じて、読みながらとても恐ろしかった。結末の彼女を思うとき、ぶるぶるっとなるのだった。

 もうひとつ、「怪物たちの夜会」。妻子持ちの男性と不倫関係を続けてきた、女性の悲劇的な物語である。ありがちな言葉を鵜呑みにして、信じ続けた女性は、復讐に身を任せることになる。その顛末は、あまりにもはっとするようなことであり、ストーカー的に男性やその家人たちに対して、強く迫りゆく姿は、切なすぎる。1対多数での争いは、女性の孤独さや哀しみを深くしてゆくようでもある。“ことの善悪も考えずに、ただ、荒くれている”という物語のはじまりに、妙に共感してしまったのは、きっと、わたしが女であるからに違いないのだが、実に女性的な怒り方だと思うのだ。無関係な人まで巻き込んでの、執念深さ。もしかしたら、これは女としての特権であるかもしれない。

4163243801アンボス・ムンドス
桐野 夏生
文藝春秋 2005-10-14

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コメント

ましろさん☆こんばんは
桐野さんが描く女って、「そこまでしなくても」と思いつつも、「わたしも同じかも?」と感じることが多くて、怖いけど目が離せないんです。(^^ゞ

投稿: Roko | 2007.05.03 21:48

Rokoさん、コメント&TBありがとうございます!
わたしも読みながら、怖くて自分を省みてしまいました。
でも読み始めたら、やめられない止まらないー!!!
そして、クセになる…(笑)

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2007.05.04 21:25

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