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2007.04.20

俺はその夜多くのことを学んだ

20070413_02034567_1 わたしたちは恋をしているとき、ごくごくありふれた日常というものから、もっとも遠い存在になってしまっているのかもしれない。恋は魔物だとか、恋は盲目だとか言われることが頷けるほどに…。何のことはない些細なことに一喜一憂してみたり、自意識過剰になってみたり。はたから見ている分には、面白おかしいものであるが、恋をしている当人にとっては、すべて大真面目のことである。三谷幸喜・文、唐仁原教久・絵による『俺はその夜多くのことを学んだ』(幻冬舎文庫)では、一夜にして多くを気づいてしまった、小心者の男性の視点で、恋愛に纏わる物語が展開してゆく。それも、妙なリアリティーを持って。だからこちらは、ついにまにましてページをめくることになる。

 この作品で語られるのは、誰もが一度は経験したことのあるシチュエーションだ。今日のデートでさんざん話したけれど、帰ってからも電話したい。電話したいけれど、特別何か話題があるわけでもない。しつこい男だと思われるだろうか。じゃあ、我慢しよう。でも、やっぱり電話しておきたい。でも、でもでも…と、いちいち悩むのである。その思考が、なんともおかしい。けれど、他人事ではないのが、心の奥をつんとつつくようでもある。男性の視点で語られてゆく、たった一夜の物語なのだが、その心情が手に取るようにわかってしまうのは、わたし自身もやはり、かなりの小心者であるからに違いない。そして、同じ間違いをしばしば繰り返す、恋愛下手の人間だからだろう。

 わたしが特に、にまにましてしまったのは、主人公がお風呂で電話の音を聞く場面。濡れた身体をふきふき、急いで電話まで走るのだが、それは空耳。落ち着け、落ち着け、と思わず呟いたものの、わたしにも思い当たる節、大あり。何かを心待ちにしているときほど、人は哀れになる生き物なのだろうか。それとも、みっともないのは、恋の特権か。ざあざあと流れるシャワーの音。例えばそんな、日常にありふれたものこそ、恋する者の邪魔をする、のかもしれない。物語の主人公が学習した、恋愛に関する7つの真理。あなたはどんなふうに読むだろうか。けれど、思うのだ。冷静な恋愛なんて、少しも楽しくない。だから、どうか突っ走ってしまえ。と。

4877287159俺はその夜多くのことを学んだ (幻冬舎文庫)
三谷 幸喜
幻冬舎 1999-04

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