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2007.03.12

白い薔薇の淵まで

20061112_9494009 花が朽ちてゆくのを見るのが好きだ。とりわけ、白い花がその色を侵食されてゆく光景というものに、わたしはじーっと見入ってしまうことがある。そして、一気にはらりと花びらを散らすときの刹那、小さなため息と共に、疼くものを胸に感じるのだ。胸にいつまでも響くのは、白い悲鳴のようなもので、生と死との別れの時をまざまざと実感させられる。花の盛りは短くも、その一瞬を咲き誇るゆえに美しい。だからこそ、朽ちてゆくときも、その名残を許してあんなにも惹きつけるのだろうと思う。中山可穂著『白い薔薇の淵まで』(集英社文庫)には、そんな花のような短くも濃い、本物の恋愛が描かれている。それも、一生に一度しかないような破滅的な恋が。

 物語は、OLの<わたし>が、ジャン・ジュネの再来と評された新人女性作家、塁と出会うことからはじまる。ふたりは出会ってすぐに恋に落ち、その甘美な性愛に溺れてしまう。お互いなしではいられなくなるほどに、どこまでも深く。切なく。何度も苦難を乗り越えて、別れてもなお、求め合い続けるふたり。その激しさと、深い絆は、想像を遥かに超えて、強くしぶとく絡みつくようでもある。そして、ふたりの破滅的な恋愛の果てにあるものは…。女性同士の恋愛が、何よりも美しく気高いものに思えるほどに、この物語に漂う雰囲気は品があって、心地よい。読み終えた先から、最初のページに戻って読み返したくなるような、そんな一冊である。

 読みながら、始終問うべく胸の中にあったのは、わたしの中の疼く思いというものだった。なぜ疼くのか。なぜ痛むのか。なぜ悲しいのか。一生に一度。そんな出会いや恋愛の経験などないわたしには、恥ずかしいかな、嫉妬のような思いが疼いていたのかも知れない。或いは、単純に胃痛かも知れないし、独り身ゆえの寂しさだろうか。それらは決して、不快ではないけれど、どことなく満たされていない自分の心を、改めて知ってしまったような感覚に近いものがある。なにも、破滅的な恋愛を望んでいるわけではない。ごくごくありふれた恋にすら、わたしは怯えているのかも知れないのだ。おそらく、どんな恋においても、疼く思いはあるはずだろうから。

 きっと、花が朽ちてゆくのを見るのが好きなわたしは、どこかで傍観者で徹していたい思いがあるのだろう。こんなにも憶病であるのは、こんなにも現実から目を背けているのには、わたしなりの理由があるのだろうと思うのだ。物語のようにいかない現実と、だからこそ焦がれ続ける無邪気なる気持ちと、その落差にただ嘆くわたしと、一生手に入ることのないものを願い続けることで空腹を満たそうとする、どこか歪んだ不誠実な思いと。それらが混ざり合って、いろんな面を持ったわたしがいて、混乱をきたしているのだろう。そもそもわたしは、自分自身を知らな過ぎるとも言えなくもない。傍観者になることで、こんな自分から逃げているつもりなのかも知れないのだった。

408747626X白い薔薇の淵まで
中山 可穂
集英社 2003-10

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41 中山可穂の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんばんは、ましろさん。
このところ、中山可穂さんの本を読んでいらしゃりますね。
私は、中山作品でもこの本が一番強烈に頭に残っています。
この本には、何か圧倒されるものがありました。

投稿: モンガ | 2007.03.17 01:07

モンガさん、コメント&TBありがとうございます!
はい。ここのところ、中山可穂さんにはまりましたね。
「弱法師」「ケッヘル」と読んで、過去の作品を再読したくなりました。
この作品は情熱的で、なおかつ上品で、読み返してみてよかったです。
売るんじゃなかった…と後悔してます。

投稿: ましろ(モンガさんへ) | 2007.03.18 20:16

はじめまして。
何度か訪問させていただいております。
最初、カテゴリーの作家の面々に度肝を抜かれた心地でした。
私の敬愛する女性作家の名を見つけた時、抱きつきたい衝動に駆られた私です。
その作家は温存させていただいて(笑)、中山氏『白い薔薇の淵まで』をちょこっと書き込みさせてもらいますね。

ましろさんも読了されていらっしゃる『マラケシュ心中』と肩を並べる作品だと思います。
昨日のバレンタインデーのチョコに添えて、氏の小説は未読と言う愛しい人へ贈った本が、迷いに迷った挙句の前者でした。
内容については文庫本の「あとがき」に委ねて…私は表紙の背中と、帯の「究極の恋愛小説」に惹かれたことを記させていただくとして…氏の本で一冊選ぶなら(迷わず)『熱帯感傷紀行』です。
氏の小説の源が垣間見れるようで、何度再読しても飽きません。
どの小説より、せつないと感じました。

最初の訪問でこのような駄文、申し訳ないです。


投稿: こな雪 | 2008.02.15 13:22

こな雪さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。
愛しい人にこの本をプレゼントするって、すごく素敵だと思います!
情熱的な方なのでしょうか。
こな雪さんの思いが伝わるとよいですね。
『熱帯感傷紀行』は未読なので、今度ぜひ読んでみようと思います。

そして、敬愛する作家さんとはどの方なのでしょう?
気になるので、今度ぜひ教えてくださいませんか。ぜひ、ぜひに。
(プロフィールのところからメールフォームもありますので、こっそりでもお願い致します)
あまりにも雑食になりつつあるこの頃なので、
あの方かな、こちらの方かな…ウーンウーンと唸ってしまいます。
気にしいなのです。すみません。
これに懲りずに、また訪問してくださると嬉しく思います。
今後もどうぞよろしくお願い致します。

投稿: ましろ(こな雪さんへ) | 2008.02.15 18:03

レスをつけてくださりありがとうございます。
本を贈った人は、一気読みしたそうです。
もっと味わって読んで欲しかったのに、私の想いは伝わっていないようでした(涙)私からのプレゼントに舞い上がって、泣きながら読んだそうです(微)。

『熱帯感傷紀行』は、文字通り紀行文です。
予め、小説ではないので、今まで読まれている中山氏の本から少し逸脱することを覚悟(笑)してお読みくださればと。

さて、私の抱きつきたくなるほど敬愛する作家とは…(こっそり書かせていただきますね)
ましろさんの右カテ列記の11番、尾崎翠氏です。
氏を知り得たきっかけは、国文学を教えていらっしゃる方の紹介からでして、専門的にご研究されているだけあって、フォーラムなどにも出席され、ご熱心な方ゆえ、私へも知識をお裾分けしてくださったという経緯です。
幻の作家との名に相応しい女性作家だとぞっこんの私。
今年の夏には是非、鳥取へ行き、氏の文学の足跡など辿ってみようと思っております。
余談ですが、その方が私に贈って下さった本も、ましろさんのこのリストに載っていることも偶然といいますか、ましろさんも専門的に読まれていらっしゃる様子がうかがえました。(庄野潤三・福永武彦)

こちらへお邪魔したご縁か、昨日、所用の為に出向いた図書館で、ましろさんのオススメ(勝手に解釈)の小池昌代氏『タタド』を見つけ借りて来ました。
川端康成文学賞受賞作で緊張しつつ、一頁、一行目へ…先ず意外な違和感に見舞われた私‥「顔に化粧水を塗っている」???「塗るか?」と思ってしまった私‥化粧水は「たたく」じゃないのか???けれども直ぐに違和感は拭えました。男性の視点、男性の化粧水感覚だと、やっぱり「塗る」だろうと…。ゆえに、少し時間を空けて次を読み進めることにしました。
ましろさん、『裁縫師』から読んだほうがよかったでしょうか?ご教示くださいませ。


投稿: こな雪 | 2008.02.16 14:34

こな雪さん、再びコメントありがとうございます!
想い。伝わっているのではないでしょうか?
一気読みするくらい嬉しくて、夢中に読めてしまう本なんて、
そうそうあるものではない気がします。
とにもかくにもラヴラヴですね。よいな~

そしてそして、お、尾崎翠さんでしたかー!
大大大好きでございます。
ただ、わたしはまだまだ勉強不足でして、
専門に研究されている方と似た傾向の読書をしているというだけで、
感極まっております。教えてくださってありがとうございます。
福永武彦氏と庄野潤三氏と、どのように関わりがあるのか、
さっぱり検討もつきませんが。

それから、小池昌代さん。
はい、ずばり今イチオシの方でございます。
わかりやすいみたいですね、わたしって(笑)
『タタド』から入られると、少しとっつきにくいかな…という、
わたしなりの身勝手な解釈があるのですが、
(どうも賞を受賞しているという、あまりに過度な期待感のせいかもしれませぬ)
どの作品も言語感覚がすごく研ぎ澄まされていて、
とても好きな詩人&作家さんの一人です。
ちなみにわたしは、小池さんの作品の『感光生活』から読みましたが、
こちらの方が女性視点で描かれているので、
びんと心にくるかもしれないです。
ちくま文庫になっているので、よろしければぜひ手に取ってみてください。

投稿: ましろ(こな雪さんへ) | 2008.02.16 15:40

おはようございます。
朝一番にこちらへ来させていただく幸せを味わっています。
沢山の本に囲まれる幸せ。
ましろさんの書評はとても魅力的ですね。
然し、購入意欲は萎えちゃいます~書評だけで満たされてしまうから…唸るほどお上手です。

尾崎翠氏…大好きでしたかー。
私は文学さまさまは不得手でして、その作品が書かれた作家の背景が読みたい、知りたい読者です。
氏も然りで、その背景に私は「宵」を見(読み)ます。
最初は「砂丘」だったり、「苔」だったのが今は確固として「宵」に移行しました。
そこで、ましろさんだったら何を思われるのだろう?と。
浮かぶものがおありでしたら是非、お教えくださいませ。

ましろさんイチオシの小池氏!
『感光生活』から入門させて頂きます。
私は小池は小池でも真理子に嵌った女で、最近は多作ゆえの鼻につく接続詞などに辟易しながらも、妙な縁なぞ感じて、読み継いでおります。

>とにもかくにもラヴラヴですね。よいな~

否、否、愛おしいものたちが多いだけで、らぶらぶだなんてところまでは到達し得ません…。

投稿: こな雪 | 2008.02.19 08:40

こな雪さん、コメントありがとうございます。
こんなにも拙いレビューに対して、
お褒めの言葉をいただきまして、恐縮です。
これからも日々精進してゆけたらと思います。

さて、尾崎翠作品についての思いですが、
わたしはあまり作品背景について考えたことなどなかった気がして、
こな雪さんの言葉に圧倒されてしまいました。
「宵」とは、すごく粋で素敵な言葉ではありませんか!
とてもしっくりぴったりしています。
それも、少女の幻想とある種の小宇宙を兼ね備えた感じの。
なので、わたしが思うところは遠慮させていただきますね(笑)
すみません!

では、またのご訪問お待ちしております。

投稿: ましろ(こな雪さんへ) | 2008.02.19 12:08

>嫉妬のような思い

うんうん、と頷いてしまいました。
私も、こんなふうに激しい恋愛には、縁が無い人間なので…
そして、それでいいと思っているはずなのに、この小説は「いいの?それでいいの?」と突っついてきますね。(笑)

ましろさんのレビュー、素直に身の内に取り込んで、持ちえた感情を整理して書いてらっしゃる。
堪能しましたわ~^^

投稿: tariko | 2008.12.21 08:09

tarikoさん、コメントありがとうございます!
わたしも中山可穂作品の登場人物たちのような恋愛とは、
まったくの無縁でございますー。
でも、読んでいると思わず激しく誰かを乞うてしまいたくなります。
恋愛・・・わたし、疎いわぁ…(苦笑)

拙いレビューにもかかわらず、堪能していただけてよかったです。
ありがとうございます☆

投稿: ましろ(tarikoさんへ) | 2008.12.21 09:48

こんばんわ
母の入院してる傍らで「白い薔薇の淵まで」を読んでたのですが
涙が止まらなかった・・・・
時折 ティシュをとっては涙を抑えて
術後の痛みを堪えてる母を横目に一人別世界に入ってしまって、数日間はこの小説を読んだ余韻に浸っていそうで 夜一人へやで読んでたら嗚咽が出てしまうぐらい
涙が出たかもしれません。

はかなくも美しく哀しく切なすぎる・・・・・・・
同性愛を超えて人と人として 
愛し合える人とめぐりあえた歓喜と狂気と・・・・・・・
心の中にある私の狂気じみた恋心が吹き出たような
文面に今終ろうとしてる恋と重なって
息苦しかった
そして その恋は決して心の中から消えてしまえないぐらい 忘れられなく時を止めてる
とく子が塁を待つ時間のように あまりにも残酷なほど長く・・・・・・・・何を書いてるのだろう

そういう私の傍らに2匹の猫が眠ってる

投稿: 素子 | 2009.01.16 01:29

素子さん、コメントありがとうございます!
わたしもこの本にはかなりのめり込んで読みました。
するすると物語世界に誘われて、現実をいつしか忘れてさえいましたよ。

もはや同性愛云々は関係なくて、人と人との間に生まれた、
深い深い痛々しいまでの愛の物語ですよね。
まさに素子さんのおっしゃる“はかなくも美しく哀しくせつなすぎる…”、
そういう読み手の心の芯に迫ってくるタイプの物語。

今終わろうとしている恋もきっと素敵なものなのでしょうね。
この物語で涙を流せる人の恋は、
きっと深い愛のもとに芽生え育まれたもののように思いますから。
どうか、少しでも素子さんの気持ちが穏やかでありますように!
そして、お母様のご回復をお祈りします。

先日愛猫の一匹(黒猫)が14歳亡くなって、傷心のわたしなのでした。
つらい思いは物語のだけでいい!なんて思っちゃってます(苦笑)
残された猫を大事にしつつ、日々を過ごしてゆきたいです。
よろしかったら、またぜひ覗いてみてくださいませ。
いつでもお待ちしております。

投稿: ましろ(素子さんへ) | 2009.01.16 06:55

こんばんわ
夜母親の待つ病院の近くに本屋さんがあるので
中山可穂さんの本を早速 探しに行きました。
深爪という文庫一冊だけ見つけて
まるで道端で子猫に出会ったように、高揚して手に取り
抱きかかえるようにして支払いを済ませて参りました。

また 読み終わったら
お返事書かせて頂きますね

猫の写真がとても素敵ですね
愛があふれてて その猫の瞳の中に
ましろさんが居るのでしょうね・・・・・・・・・

投稿: 素子 | 2009.01.17 01:18

素子さん、再びコメントありがとうございます。
お、中山可穂さんの作品に、すっかりはまられたご様子。
「深爪」も気に入っていただけるとよいなと思います。
読み終えたら、ぜひまた感想お聞かせください。
お待ちしております。

写真は下手っぴですが、猫の愛さしさに助けられて、
日々精進の毎日です。でも、なかなか上手くならない…(苦笑)
猫への愛情だけで胸が高なって、シャッターを押してます。
一緒に過ごした時間を残せることは、とても幸せなことですね。

投稿: ましろ(素子さんへ) | 2009.01.17 09:29

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白い薔薇の淵まで 中山 可穂 【白い薔薇の淵まで】 中山可穂 著 《この本は◎だ》 中山可穂と聞けば、女性と女性の愛の物語である。 この本はやっぱり凄い話である。 女性が女性を愛するという事は、男性よりも奥が 深いのか、この本を読むとその答えがあるのかも 知れない。性の描写が一杯に出てくるが、いやら しさの微塵も感じないのが不思議だ。 『それは恋としか呼びようのない、不自由で理不尽 な強い感情だった。この人はわたしを好きになりかけ ている。いや、もうとっく... [続きを読む]

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