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2007.03.25

ポポイ

20070109_026_1 ニュートラルな領域を侵す、無機質なものと有機的なもの。保ってきたバランス。それらが少しずつ傾きはじめ、侵食されてゆく。なまあたたかな人肌と、そうでないもの。そして、より人間的であるものを求めて。無意識に。或いは、意識的に。ゆっくりと。でも確実に。倉橋由美子著『ポポイ』(新潮文庫)。この作品は、最新の医療技術によって生かされている首を世話することになった舞の、奇妙なる日々を描いたものだ。ニュートラルな立場を貫いてきたはずの彼女の心の変化や、首をめぐる人々の語り、その人間模様が心地よくも不気味に展開されてゆく。謎に包まれた物語は、読み手の中にもするりと入り込んで、わたしたちのバランスまでも、侵してゆくような気がしてくる。

 政界で権力を握る元首相の邸宅。そこにテロリストが入り込み、切腹した。テロリストの一人である青年は、胴体から首を切り離されて生かされる。首だけとなった青年は、元首相の孫娘である舞によって世話される中、その脳内を研究されることになるのだった。脳だけで生きる青年に、悲嘆を表すギリシア語の感嘆詞の1つである“ポポイ”という名前をつけた舞は、自分なりのやり方で、ポポイから言葉や心情を引き出そうと試みる。ポポイの状態は、機械で生かされている、いわば植物人間状態。そこで読み手は、人としてのあるべき姿について考えずにはいられなくなる。21世紀を舞台にしたSF的な世界ながら、著者の色というものを感じる作品である。

 この『ポポイ』。もともとラジオドラマのために書かれたテキスト。作品の中には、聴覚をやわらかに刺激する音楽があふれている。とりわけポポイが気に入り、舞が心地よく眠りに就いたドビュッシーのピアノ曲は印象的だった。脳の機能回復には効果がないにしても、脳が喜ぶような音がこの世界にあることが、たまらなく愛おしい気持ちになる。「ベルガマスク組曲」や「前奏曲集」、「子供の領分」など、肌触りのやわらかな音色は、まどろみを包んでくれるだろうと読んでいても感じられる。音楽を語彙で表現し尽くされた気がするほどに。読みながら音に身をたゆたわせて、今夜の眠りが穏やかであることを願ったわたし。いい読書をした。素直にそう思う。

4101113149ポポイ
倉橋 由美子
新潮社 1991-04

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コメント

TBさせていただきました、ましろさん。^^
にまにましながら読みました。(怪しい…笑)

投稿: TRK | 2007.03.26 15:56

TRKさん、コメント&TBありがとうございます!
わたしもつられてにまにま…(笑)

投稿: ましろ(TRKさんへ) | 2007.03.27 12:54

ましろさん、こんにちは!
脳と音のシャワーのくだり、印象的でしたよね。
確かにドビュッシーなら柔らかいシャワーとなってくれそう。

桂子さんシリーズ、ぜひ探してみようと思います。
簡単には気がつかないモチーフがいっぱい潜んでいそうで
倉橋由美子さんの素養の深さに着いていけるのか
ちょっぴり不安でもありますが~。

投稿: 四季 | 2009.05.09 06:45

四季さん、コメント&TBありがとうございます。
そうですね。印象的でしたよね!
思わずドビュッシー、聴きたくなってしまったりしましたよ。
リアルタイムで知っていたら、ラジオドラマも聴いてみたかったです。

桂子さんシリーズ、いいですよ~としつこいくらいに言ってしまう。
一冊しか読んでないだろう!と、自分に自分で突っ込みつつ(笑)
倉橋さんの世界は本当に奥深いというか魅力的で、
去年復刊された『聖少女』もなんとも印象的でした。
このまま復刊ラッシュが続いてくれるとよいのですけれど。
どうなんでしょうね。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2009.05.09 06:54

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