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2007.02.17

神童

20050721_9944069 タタン。タタタン。ちち。ちぃちっち。つつん。つつつん。てってて、てって。とーっと、ととと。音がリズムになり、リズムが音になる。すべてを震わす鼓動が、それを感じ取っている。いま、ゆけ。いま、そら。ゆけ、ゆけ。タタン。タタタン。ちち。ちぃちっち。つつん。つつつん。てってて、てって。とーっと、ととと。深い意味もなく名付けた、脳内をぐるぐると廻る、たちつてとの鼓動を感じながら、さそうあきら著『神童』(双葉社、双葉文庫)を読み終えた。「音は鳴る」ものだと思っていたわたしにとっては、「音が響く」という伝え方が、とりわけ印象的な作品だった。奏でられる音楽というものは、「響いて」こそ伝わり、「伝わる」からこそ届き、そして初めて音として「鳴る」のだと知った。

 響いて、鳴る。音の伝わり方を思えば、当然のようなことながら、わたしがそこに注目したのは、物語のはじまりとおしまいを思ったゆえだ。名門音大を目指して浪人中の和音(かずお)が、野球好きな天才ピアニストの少女・うたと出会う物語は、まず「音ありき」の出会いから始まるのだ。それも、ボートのオールから伝わる振動。魚の声。響く音。その音は、絵としてぱっと視覚的に入ってくる。そして、聴覚で捕らえる。確かに。しかとキャッチして、響くものを感じさせるのだ。なおかつ、言葉少なく魅せる絵だから、というのもあるだろう。暗闇の静けさを見事に表現しているのだ。印象的な出会いの場面は、その後に続く物語の端々でも思い出される程に脳内にこびりついて離れない。

 それから、何よりも、この作品で感じるのは、「音を奏ですぎない」ということ。音楽漫画でありがちな、音を表現する過剰な演出が控えめなのである。音を遮断した世界でも聞こえてくるような、振動。あくまでも、音の震えを大事に描いているように感じられる世界がある。特に、わたしは後半部分の自然の音を描いた部分が好きで、自分の暮らす場所との共通項に思わず耳を澄ませていた。そして、意識しなければ聞き取れないような、小さな響きの1つ1つが、たまらなく愛おしくなるような感覚に陥った。自分の呼吸や鼓動までも何もかもすべてが、奇跡のような。宙までも囁くような。そんな錯覚に。ちっぽけな自分自身の存在すらも、無条件に肯定したくなるくらいだった。

 また、それはまさに、著者の言うところの“大好きな音楽を音で表現するのではなく、エピソードとして表現していく漫画を目指した”というところにも、大きく関わっているように感じる。物語の主人公は、和音(かずお)でもうたでもなく、音。音の物語の背景にある、ある1つのエピソードが、和音であり、うたであり、読者であるわたしたちである。そんな思いを抱くのだった。タタン。タタタン。ちち。ちぃちっち。つつん。つつつん。てってて、てって。とーっと、ととと。音がリズムになり、リズムが音になる。すべてを震わす鼓動が、それを感じ取っている。いま、ゆけ。いま、そら。ゆけ、ゆけ。タタン。タタタン。ちち。ちぃちっち。つつん。つつつん。てってて、てって…と。

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