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2007.02.06

体の贈り物

20070207_4004 生の横たわるところに、死あり。生と死。相反するように見えるそれらは、実はよく似ていて、とても近しい関係にある。生を全うした先にあるのは、まぎれもなく死であり、死を意識した途端にどこからかみなぎるものは、生に他ならない。そして、どちらとも逃れようもないわたしたちは、日々の端々にふと思い至るのだ。自分の向いているベクトルというものを。例えば生を。例えば死を。レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳『体の贈り物』(新潮文庫)は、そんな目の前に迫り来る問題と引き換えのようにして残される、かけがえのないものについて紡がれた1冊である。余計なことを排除した文体で綴られる11もの物語は、どこまでも真摯に、真っ向から深い淵まで寄り添っている。

 物語の語り手はホームケア・ワーカーの私。重い病に侵されて、次第に様々なことができなくなる人々を手伝い、友として最期を見取り、その最期の贈り物を受け取るのだ。充足や涙、希望、悼み、言葉…といったものを。ときには喜び、ときには悲しみ、その1つ1つを慈しむように生と死を見守る。逃れようもないものから、ときどきは目を背けつつも。きれい事だけで終われないリアルな現実は、容赦なくじりじりといつまでも照りつけるようでもある。それでも一歩踏み込んだからには、最期というものを覚悟しなくてはならない。出会った分だけ別れがあり、別れの分だけ何かを得る。そのメカニズムが憎らしくなるほどに、時間は流れ、確実にわたしたちは歳を重ねてゆくのだろう。

 失うということ。それはただの喪失感に終わらない。それを示すかのように、語り手のわたしは壁にぶつかる。ホームケア・ワーカーとして自分のすべきこと。一人の人間としてすべきこと。友としてすべきこと。簡単に切り離せない人間関係であるほどに、疲れの色は隠しきれない。長年の経験も、慣れることを知らない。痛みは、いつまでもじくじくと、乾くことを知らずに疼くようでもある。その人間的な感情を、惜しげもなく紡ぐということの潔さに、圧倒されずにはいられない。わたしたちが、当たり前に抱く思いというものを、ぱっと見せられたがゆえに。その醜さをさらりと読んでしまったがゆえに。いつしかわたしは、胸を静かに熱くするばかりなのだった。

 そうして胸を熱くした先には、日々を生きるための糧のようなものが残される。語り手が感じ取ったもの。それを通じて、読み手であるわたしたちにも、ほんのりとあたたかな贈り物が届けられるのである。その贈り物は、読み手それぞれに違うかたちをしているかもしれないし、よく似たかたちをしているかもしれない。受け取り方はそれぞれ。捉え方もそれぞれである。これまで持っていた何かを掻き立てられる人もいるだろうし、新たなる感情の芽生えに戸惑う人もいるかもしれない。著者の手を離れた物語は、様々なところで次々と変化をしてゆくかもしれないのである。わたしはこの1冊を大切に抱えて、気づきの一歩を踏み出してみたいような心地でいる。

4102149317体の贈り物
レベッカ ブラウン Rebecca Brown 柴田 元幸
新潮社 2004-09

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コメント

こんにちは!

時にどこかの底を歩いているような感じをじわじわと受けるにも関わらず、「ほんのりとあたたかな贈り物」も感じられ、暗い気持ちで読み終わらずに済むとこがいいお話だなー、と思いました。

でも出来たらもう少しいくつか読んでみたかったかな。あと3話くらい。…て、ちょっと欲張り?(笑)

投稿: ゆら | 2007.02.10 03:03

ゆらさん、コメント&TBありがとうございます!
描かれているテーマはダークなのに、読み心地はホントあたたかでしたよね。
「鳩よ!」連載時に読んでいたときからだいぶ経っての再読でしたが、
抑制の効いた文章がやっぱりいいなぁと思いました。
あっという間に読み終えてしまえるので、もっと読みたい気分にさせられますよね。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2007.02.11 15:25

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生きている、ということが感じられるお話でした。と言っても、いきいきと生きている [続きを読む]

受信: 2007.02.10 03:06

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