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2007.02.26

ひとり暮らしの のぞみさん

20060712_33015 一人と、独りぼっちは違う。一人には、誰かと寄り添うことで二人にも三人にもなれる可能性があるけれど、独りぼっちは、あくまでも一人きりのままだ。もちろん、どちらにしたって、寂しさや孤独というものはつきものだし、部屋の隅っこで泣きたい時だってあるだろう。そんな時、心の片隅には誰かの存在がいて、何らかのかたちで支えとなってくれることがある。それは必ずしも、人である必要はないし、独りぼっちゆえの強みみたいなものが、どこかにあるのかもしれないのだけれども。どちらかというと、独りぼっちに近いわたしは、蜂飼耳・文、大野八生・絵による『ひとり暮らしの のぞみさん』(径書房)を読みながら、そんな思考をめぐらせたのだった。

 一人暮らしの、のぞみさん。彼女は大きな鳥かごを持っている。けれど、中には何もいない。気がつけば、鳥かごは日に日に大きくなってゆき、いつのまにか大きな鳥と小さな鳥が部屋に入ってくるのだった。そして、鳥のいる生活がスタートするのである。それまでの彼女は、かつていたはずの鳥の存在も忘れるほどに、忙しく日々に追われる生活だったように思われる。一人暮らしというよりは、独りぼっちの暮らし。それを指摘するかのような鳥かごの存在は、彼女の心の空洞の表れのようにも感じられてくる。それは、虚しさかも知れないし、寂しさや孤独といったものかもしれないし、日々のストレスの表れなのかもしれない。とにかく彼女は鳥たちによって救われるのだった。

 しかし、物語はのんびりと穏やかに終わるわけではない。鳥たちには鳥たちの生活があり、のぞみさんにはのぞみさんの生活というものがある。つかの間の幸せに満ちた日々というものは、そう長くは続かないのが世の中の常というものである。大きな鳥が去りゆく時、彼女は気づくのだ。3-1=2なのではなく、1+1=2なのだと。そして、やがて小さな小鳥が去った時も、思うのだ。3-2=1ではなくて、はじめから1だったのだと。はじめから1。それだけを言葉にすると、悲しい響きのものかもしれない。だが、物語を読んでいると、どこかしら強い絆や余裕のようなものを感じさせる1なのである。ただの1じゃなく、2にも3にもなれる1だというように。

 そう、つまり彼女は変わったのだ。生活自体に大きな変化はなくとも、内面的な部分で変わったのだと言えよう。一人の時間も悪くない。たまにはぼんやりと、聞こえてくる音に耳を澄ますのも、なかなかいいものだというふうに。絵本のように薄いこの物語には書かれていないのぞみさんのあれこれを想像してみると、なんだか自分のことのようにほっこりと嬉しくなってくる。独りぼっちに近いわたしの場合は、もしかしたら何よりも本を読んで物語に浸りきることが、最も効果的な心の支えなのかもしれない…なんてことまで考えながら、わたしもいつか一人じゃなくなる日をひそやかに願いつつ、のぞみさんの物語をそっと愛おしむようにおしまいにするのだった。

477050182Xひとり暮らしののぞみさん
蜂飼 耳
径書房 2003-10

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コメント

こんにちは。TBがうまくいかなかったみたいです。
ましろさんの記事をきっかけに読ませていただきました。
すごくよかったです!
押し付けがましくなくて、人って変わっていくもので
でもその変化をも受け入れて、自分は自分として時々交わりながら生きていくんだな、って思いました。
この雰囲気、かなり好きです。
ご紹介ありがとうございました。

投稿: sonatine | 2007.04.20 15:36

sonatineさん、コメント&TBありがとうございます!
すみません。こちらの設定が非公開になっていたようです。
公開設定にしておきましたので、安心してくださいませ。

蜂飼耳さん、いいですよね。
さらりとしていて、よく馴染む感じが。
わたしもこの雰囲気、とても好きですよ。
読んでくださって、どうもありがとう★
レビュー書いた甲斐がありました。
sonatineさんの記事も読ませていただきますね。

投稿: ましろ(sonatineさんへ) | 2007.04.20 20:37

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