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2007.01.12

宙の家

20070109_020 壁一枚隔てたところで、距離を感じることがある。同時に安堵というものを感じることもある。こんこんとノックすれば、こんこんとノックが返ってくる。けれど、確かにそこには、壁一枚分の隔たりがあって、もしかするとそれ以上の距離があるのかもしれなくて。近くても遠い、遠くても近い。わたしは、そんな関係を愛おしいと思ってきた。大切だとも思ってきた。だからこそ、壊れやすくて危ういものだとも思ってきたのだった。大島真寿美著『宙の家(ソラノイエ)』(角川文庫)には、そんな姉弟の在り方が描かれている。物語の主題は、姉弟を中心に大きくゆらぐものの、やがてその均衡を取り戻すまでの過程である。さわやかなダークさに、清々しい心地にさせられる。

 マンションの11階。そこに暮らす女子高生の雛子。中学からエスカレーター式に進学してしまったせいなのか、本来の性格なのか、暇さえあれば眠ってしまうという、なんとも呑気な日常を生きている少女である。それとは対照的に、小学生なのにもかかわらずしっかりとしている弟の真人。二人は、密接には関わり合っていなかった…はずだった。けれど、祖母の萩乃がときどき交信不能になることをきっかけに、その距離をぐっと縮ませることになる。その絶妙な関係に感心すること、しきり。だが、よくよく考えてみれば、わたしのところもこんなものなのかもしれないなぁと、思ってほっこりしてしまうのだった。“きょうだい”っていいものだ。そう、つくづく感じる。

 物語は、そんなほっこり感を遮るように、危うい方向へと進んでいってしまう。さわやかに描きつつも、人の内面のダークな部分をえぐってゆくのだ。とりわけ、表題作「宙の家」の続きである「空気」は、まさに危ういバランスの中で展開されてゆく。呑気なはずの雛子の内に秘めた気持ちは、無意識のうちに空の向こう側へと傾き始める。11階という高さのベランダから空へ向かうこと。それの意味するものは、客観的に思えば危険極まりない。そんな姉の様子を“なんか変”と感じ取った真人は、親友の郁丸の兄も“かなり変”という理由から、二人を引き合わせるのだった。小学生と高校生と社会人が関わり合い、自分なりのやり方でもがき足掻く姿は、滑稽ながら清々しい煌めきを見せる。

 “宙の家”。11階という高さは、まさにそう呼ぶにふさわしい。きっと、空も近くに感じることだろう。せいぜい4階止まりのわたしには、想像もつかない暮らしである。空など見ることもない2階暮らしの今では、物事の向こう側を垣間見てみたいという、雛子の抱いた欲求すら起こらない(それは、年齢のせいなのかもしれないが)。そんな退屈極まりないわたしの生活にも、危うさはすぐ傍にいつでもあって、その均衡はぐらぐらと揺れているのだろう。そのことを意識してみると、退屈という言葉は不要なくらいに刺激的な日常が広がってゆくようにも思える。そうして、ゆらゆらゆれながらも、心も移ろいゆくのだ。願わくば、よい方へ。よい方へ。進むべき道へ。

404380802X宙(ソラ)の家
大島 真寿美
角川書店 2006-12-22

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コメント

こんにちは。
今日の書評の内容がなんとなく気になって、
ずっときょうだいのことについて考えていました。
私もおとうとがいるので。
で、なんとなくおとうとの出てくる小説を書きました。

11階で暮らすってどんなふうなんでしょうね。
宙の家、読んでみたくなりました。

平和なようでなんとなく歪む世界って、
小説の中でよむぶんには素敵ですよね。では!

投稿: やまかわうみこ | 2007.01.13 16:14

やまわかわうみこさん、コメントありがとうございます!
“きょうだい”についての小説を書かれたのですか。
ぜひ、読んでみたいです。
うちはちなみに、兄がいるのですが、
兄の出てくる小説を書いたことがあります。

「宙の家」いいですよ。
大島真寿美さんの作品は、とても好きです。
ぜひ手にとって読んで、ほっこり感を味わってくださいませ。
取り上げているテーマはどの作品もディープなのに、
どの作品も清々しくて、瑞々しい感性が煌めいていますよ。

投稿: ましろ(やまかわうみこさんへ) | 2007.01.14 16:32

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