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2006.12.02

薔薇をさがして…

20061125_44008 秘密は秘密のまま。謎は謎のまま。夢は夢のまま。うごめく思いはそのままに。そうしてすべてを薄いヴェールで覆ってしまえば、心地よくいられることもある。いつか来るチャンスのために。いつかくる者のために。いつか出会える時のために。待つのだ。待つしかないのだ。そのいつかのために。今江祥智・文、宇野亜喜良・画『薔薇をさがして…』(BL出版)は、そんな不思議な余韻をわたしに残した。物語絵本三部作シリーズの二冊目である、この作品。前作『オリーヴの小道で』と同様に、美しい作品となっている。異国の雰囲気を醸し出す宇野さんの画は、どこで見かけても心をぎゅっと掴むものがある。今江さんの文章とは、まさに見事なまでのコラボーレーションを実現している。

 物語は、ある日ふいに事故で父親を亡くした、母とその息子の暮らしを描く。悲しみに暮れる暇もないほどに、あまりにも突然のことだった。二人には、ただ今後の暮らしを考えるべき時だけが待っていた。働きに出るほど丈夫でない母と、まだ中学生の昭夫。父親が残してくれたものを使うべくして考えたのは、“西洋居酒屋バックステージ”を開くことだった。幸いにも、父親が作った手頃なカウンターが家にはあったし、そこでお酒を飲むのが好きだった父親のために、簡単なつまみくらいなら昭夫は作れるようになっていた。生前の父親の友人たちも協力してくれ、少しずつ母親もお酒の作り方を学び、店らしくなっていく。店には、中学生の昭夫の姿が見えないような仕掛けもありつつ…。

 店に客が入り始めた頃、昭夫ははじめての背中を見つける。ひそやかに“銀いろさん”と呼んでいる女性の姿である。その正体を探るべく、母親に訊いてみるものの、そんな客がいた覚えはないという。その後もたびたび店を訪れる「銀いろさん」だったけれど、気がつけば毎回少しずつ大人びてきているような気がしたのだった。昭夫は、転校していったばかりの京子ちゃんと「銀いろさん」を重ねてみたりもするのだが、同級生にしてはあまりにも大人過ぎる背中だったと思うのだった。七年か八年したら、自分だって大人の男になる。それまでずっと、この店に通い続けてくれることを密やかに願う、昭夫なのだった。「銀いろさん」が京子ちゃんなのか。誰なのかわからぬまま。

 突然亡くなった父親は、この物語にそっと見守るように登場してくる。そのあたたかさが、なんとも心地よい。母親の線の細そうなイメージとは真逆の、どっしりとした佇まいが、そう感じさせるのかもしれない。昭夫もまた、きっと父親のようなどっしりとした男性へと成長するに違いなく、「銀いろさん」に、或いは成長した京子ちゃんに、しっくり馴染むような、つれあいに見えるような大人になる努力を惜しまないだろう。ほのかに漂い香ってきた薔薇の香りをたよりに、また訪れるいつかを待つのだ。秘密は秘密のまま。謎は謎のまま。夢は夢のまま。うごめく思いはそのままに。いつか来るチャンスのために。いつかくる者のために。いつか出会える時のために。そのいつかのために。

≪物語絵本三部作シリーズの過去記事≫
 ・『オリーヴの小道で』(2005-08-07)

4776400901薔薇をさがして…
今江 祥智
BL出版 2006-11

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