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2006.12.22

均ちゃんの失踪

20041212_010 移ろいゆく。変わりゆく。季節も人も。何もかもが、着々と。あっという間に。その変化の流れに逆らうようにして、向かい風の中を歩むことは、あまりにも困難で。あまりにも孤独で。だから、わたしはその流れに身を任せるかのごとく、つい甘えてしまう。移ろいゆくことに。変わりゆくことに。変わろうという意識はなくとも、変わらざるを得ないことに。そうして確固たる変わらぬものを持ちつつも、安易なものに流されてしまう。中島京子著『均ちゃんの失踪』(講談社)を読みながら、いつのまにかわたしは、移ろいやすいものと、変わりゆくもののことを思っていた。それは決して悪いことではない。むしろ、いいことかもしれないのに、堂々と良いと言えないわたしがいたのだった。

 タイトルの通り、均ちゃんは失踪してしまう。その均ちゃんの家に泥棒が入ったことから、集うことになった三人の女性たち。元妻であり、家主の景子。恋人の薫。均ちゃんを二番目の恋人にしている空穂。警察は行方知れずの均ちゃんの証言をとるために、闇雲に彼に関係する人物たちを集めたのだった。けれど、肝心の均ちゃんの行方を知るものは誰もいず、いつのまにやら奇妙な具合に集ってしまった三人の女性たちは、親交を深めてしまう。そこに均ちゃんとは腹違いの弟までが加わって、不思議な構図が出来上がってしまうわけだ。均ちゃんがいない間の数ヶ月間に、それぞれが変わりゆく。もちろん、均ちゃん自身も変わりゆくのであったが、その速度はどうやら彼女たちとは異なるらしい。

 いや、変わりゆく速度というものは、そもそも誰もが異なるはずだ。何が起こるのか予測不可能な日常の中で、わたしたちは急激に変化したり、同じ場所に低迷してみたり、後退することもあるのだ。だが、均ちゃんという人の変化の速度は、どうも登場人物の誰とも交わらない気がしたのだった。周囲は変わりゆくのに、常に自分のペースを崩せずにいると言ったらいいだろうか。それとも、周囲を翻弄してみたりされてみたりするうちに、一人取り残されてしまうと言った方がいいだろうか。あたりまえのことながら、彼は均ちゃんであり続けるしかない運命にあるように思えるのだった。均ちゃんは均ちゃんであれ。彼を通り過ぎていった女性たちは皆、もしかしたらそれを一番望んでいるかもしれない。

 先に述べた、移ろいやすいもの。変わりゆくもの。均ちゃんを通り過ぎてゆこうとする女性たちは皆、それを敏感に感じ取り、潔く受け入れている。自分自身の変化として。新たなる一歩として。或いは、人生の決断として。思えば、何もかもがわたしとは異なるのだった。そう、わたしは甘い。頑固な癖に甘っちょろい。気まぐれでもあるし、流されやすくもある。何かの影響をすぐに受け入れてしまう。やっと確固たるわたしが出来上がった頃には、もうまた移ろい始め、変わりゆくわたしがいる。その繰り返しは、人間なら当然のことかもしれないが、なんとも情けなくなるのだった。まだまだ変化の途中なのだと言い聞かせつつ、励まねば。そう無性に掻き立てられた気がした。

4062136155均ちゃんの失踪
中島 京子
講談社 2006-11-10

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