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2006.11.22

Presents

20061112_004 贈り物。生まれてから死ぬまでに、わたしたちはどれほど多くのものを贈られるのだろう。それらは決して、たいそうな品でなくてもいい。何気ない言葉だったり、記憶だったり、目に見えないものであってもいい。どんなものでも、心の奥底に残るもの。それが、本物の贈り物であるに違いないから。小説・角田光代、絵・松尾たいこ、による『Presents』(双葉社)には、そういうじんわりと幸せな物語がたくさん詰まっている。けれど、幸せな物語を悲しみの中で読むのは、とても苦しい。正直、今のわたしにとって、これらの物語は少しばかり美しすぎたのだった。あまりにもきらめいているから、あまりにも正しく思われたから。そして、痛い部分を突いてきたから。

 名前。それは、親から贈られる最初の贈り物なのかもしれない。どんな意味が込められて付けられたのか。自分はなぜこの名前を与えられたのか。それを問うてみるのも悪くない。この作品にある「名前」では、春子という名前の女性の名前に纏わる物語が描かれている。春に生まれたから、春子。そんなふうに母親から聞かされる。だが、実はそこにたどりつくまでの葛藤を、母になるときになって、初めて知ることになるのだった。ちゃんと悩んでいたじゃないか。ちゃんと考えていたじゃないか、と。そこまでの過程が、詳しく描かれていなくとも、読み手にまでじわじわと伝わる何かがある。そして、自分の名前一つに対して時間をかけてくれた分だけ、嬉しさが込み上げる。

 自分の名前の由来。わたしは敢えて、それを問うたことがない気がする。自分の名前が憎いという気持ちだけは、散々家族に訴えているのだけれども。姓名判断的には最高の運勢らしく、両極端な人生を歩む名前らしいことを知っている。幼くして命を落とすか、それとも大成するか。それくらいの極端さだという。その、どちらにも属さないわたしは、ただただ自分の名前が憎らしかった。そんな時、母親から告げられる。わたしには、二つの名前の候補があったことを。どちらにしても、あまり変化あるような名前ではなかったけれど、苦心の末に名づけられたことだけは、しっかりと理解できた。そして、聞かされた。母親もまた、自分の名前を憎らしく思っていたことを。

 また、つい先日、父親からささやかな品をもらった。旅行土産にしてはかなりセンスのない、名前入りの携帯ストラップだった。いかにも安っぽい。けれど、ちょっと洒落た筆記体の金色の文字にビーズがいくつか付いているものを。小学生への土産じゃないんだからさぁ…と思いつつも、わたしは胸がじんと痛んだのだった。わたしの名前。そうだった。わたしの名前はこれだった、と。ありきたりの古風な名前ながら、ずっと嫌い続けてきた名前がそこにはあった。今のわたしに一番近くて、遠い名前。それがわたしの名前だったから。憎みつつも親しまざるを得なかった、名前。それを父親が敢えて土産として選んだことが、なんだかとてつもなく、じんときたのだった。

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角田 光代
双葉社 2005-12

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コメント

>これらの物語は少しばかり美しすぎたのだった
>痛い部分を突いてきたから
なるほど、なるほど・・・・
途中で挫折しそうになりながら読まれたんですね。
ハズレでしたか・・・・すみません。
お疲れ様でした。(笑)

私は、個人的に「ランドセル」の話にグッと感情移入して読んでしまいました。
後半の年老いてからの話は、ちょっと無理があったような・・・
ピンときませんでしたね。

我が家の出たらすぐ買う特別な作家さんは「川上弘美センセイ」です。
でも、ましろさんに追いついていな~い!!
明日から「真鶴」読み始めます。

投稿: マリリン | 2006.11.23 21:38

マリリンさん、コメントありがとうございます!
いえいえ、決してハズレではありませんでしたよ(笑)
ハズレでしたら、記事にはしてません。
「ランドセル」。とっても、よかったですよね。
ただ、わたしには忌まわしい記憶が邪魔をして、
感情移入できなかったんです…でも、話自体はよかったです。

川上弘美さん、お好きなのですね。
わたしも負けないくらいに大好きですよ。
今のところ、コンプリートしております!
一冊を除いて、記事にはしていないのですが、
大好きな作家さんの一人ですよ。
「真鶴」読まれたら、ぜひ感想聞かせてくださいませ。

投稿: ましろ(マリリンさんへ) | 2006.11.24 20:02

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