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2006.11.08

強運の持ち主

20061108_003_1 “がんばって”は、かなり嫌いな言葉だ。言われたくもないし、使いたくもない。“がんばって”なんて言われたら、“精いっぱいがんばってるっちゅうねん。ボケ!”とか心の中で密やかに言い返すほどだったりする。けれど、瀬尾まいこ著『強運の持ち主』(文藝春秋)での“がんばって”は、なんだかとても心地よかった。思わず、ふふふっと笑みがこぼれた。嫌悪するはずの言葉にそんなことを感じたのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。人生始まって以来の新感覚、とでも言ってしまおうか。大げさなようだが、わたしにとっては、かなりの衝撃的出来事であった。言葉は変わらない。ときには無責任なまでに変化を嫌う。けれど、人の心は変わるものだ。頑ななわたしだって。

 物語の主人公は、元OLの占い師。半ば強引に強運の持ち主である恋人を手にして、商売もなかなかの繁盛ぶり。些細な不満は数あれど、幸せな日常を生きているように思える。彼女の評判を聞きつけて次々とやってくる人々。彼女は、その悩みに振り回されつつ、そこでしばし自分の生き方を見直しながら、マイペースに前へと進んでゆく。適当にさばいていた占いも、いつのまにか本格的な真剣勝負になってくるし、恋人のこととなれば、もうそれは真剣をも超えた先にある、粘り強い執着を見せてくれる。実に忙しい日々なのである。まさに大忙し。でも、なんだかんだ言っても、流れる時間は平和である。それが、なんだか妙にテンポよく笑みを誘うのだ。

 占いについて、わたしはほとんど無頓着である。興味を示すのは、たいてい恋をしているときだけで、気ままに雑誌を立ち読みしては、へぇと1つこぼす程度。生年月日や姓名判断に至っては、もうお手上げ。自分のあまりの惨めさを露呈し、自覚させられるようなものでしかない。それでもときどき気にはなるものの、星のめぐりやなんとか占術になんて、人生を決められてたまるか!みたいな精神が、少なからずわたしにはある。そのせいなのか、この物語の中での言葉は、やけに響いてしまったのだ。これが“占い命”みたいな人だったら、ふふふっと笑みをこぼすことなんてないかもしれない。もしかしたら、がっかりしてしまうかもしれない…なんてことを心配に思う。

 さて、肝心の“強運の持ち主”である、恋人について。彼は別段何かに優れているとか、すごく格好いいとか、そういうタイプではない。むしろ、地味である。しょうもなかったりもする。でも、やはり主人公と恋人とのやりとりには、幸せを思わずにはいられないのだ。“付き合って二年にもなると、いつからか自然にお互いが苦手なものをカバーできるようになってくる。お互いがいるから、二人ともほんの少しだけど生きやすくなっている”というくだりには、ほうほうと思わず感心してしまったくらいだ。きっと、いくら一人で強運を持っていたって、何も起こらない。誰かと関わることで、誰かと支え合うことで、それが初めて強運となる。ふふふっと笑うのと同じように。わたしは、そんな気がしている。

4163249001強運の持ち主
瀬尾 まいこ
文藝春秋 2006-05

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