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2006.11.04

リトルターン

20050124_44014 挫折。それは、一生において、何度も訪れる厄介なものである。それも、ひどく苦しみ、多くの悲しみや痛みを伴うもの。たかだか二十数年生きているわたしにも数えきれぬほどあったことであるから、この先もずっとその厄介なものと出会う機会はあるのだろう。歳を重ねて、日々を生きて。そこに挫折以外のものがある限り、ずっと。ずっと、出会うべきものなのだろう。ブルック・ニューマン作、五木寛之訳、リサ・ダークス絵による『リトルターン』(集英社、集英社文庫)は、まさにそんな悩めるわたしたちの、挫折の物語である。厄介なことこの上ない挫折というもの。それを、なんとも愛おしいかたちとして、するりと読ませるのだ。あちこちに散りばめられた、言葉のスパイスと共に。

 物語の主人公は、小さなアジサシ。つまりは、コアジサシ。リトルターンという鳥である。アクロバット的な飛行を得意として、生涯のほとんどを空中で過ごすのだ。けれど、物語は、“飛ぶ”ということなしには語れない鳥から、残酷にも“飛ぶ”ことを奪ってしまう。ある日ふと、リトルターンは飛べなくなってしまうのである。そして、飛び方を忘れたリトルターンは、1羽きりの旅に挑むことになる。これまでの友だち、空、飛行、生き方など、ありとあらゆるものが彼から失われてしまうのだった。翼に原因があるわけではないこと。それは、飛べなくなった当人が一番よくわかっていることだった。きっと、なくしたものに気づいたときに、もうそれはわかっていた。

 そこで、彼は見つめる。自分を。あらゆるものを。そして、考える。今いる自分の場所について。今できることについて。自分がするべきことについて。思えば彼はこれまで、そういう事柄について考えることがなかった。また、それが特別なことではなく、誰もが必ずどこかで通るべき道なのだと知るのだった。“もし求める気持ちを自分の心から追い出してしまったら、その時は自分が求めるものを手にするのは、とんでもなく困難になるだろう”そう思考をめぐらせて1つ1つを見つめ、考えてゆくのである。物語は、リトルターンの内面を丁寧に紡いでゆく。そして、新たなる友だちを登場させることによって、さらなる深い思考へと導く手助けをしてくれる。

 “普通とか普通でないとかいう見方にとらわれている限り、普通でないものは普通じゃないんだ”と、なんとも哲学めいた言葉を放つ、その友だち。そう、つまりは、自分の知っていること以外のことを知る。そういう時間も必要だということ。これまでとらわれてきたものから、今置かれている場所を切り離してみること。以前はできていたこと。それが今はできない。ならば、今できることに目を向けるべきなのだ。昨日は今日になれば、過去になる。今日は明日になれば、過去になる。過去から学びつつも、それを引きずらずに生きることも、ときには必要なのであろう。そうして新たなる自分を見つけたときに、きっと再び羽ばたくことができる。このリトルターンのように。そう素直に信じられなくとも。

4087460495リトルターン (集英社文庫)
Brooke Newman Lisa Dirkes 五木 寛之
集英社 2006-06

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コメント

自分は挫折とか後悔とかそれなりにある

いろいろあったけど
「今できることに目を向けるべきなのだ」
ウンウン、そうだな~と。

この本は共感できそう

投稿: ひろ | 2006.11.05 23:40

まだ会社にいた頃、この本を読んで色々考えました。

もっとも、この本を読むということは素直に出来なかったと思います。
いまならもっとスッと入っていけるのかと思うのですが。

僕に与えられた人生における使命のようなものがあるなら(そんな大それたものでもないでしょうが)、それはひょとして孤独の中から何かを見出すことなのかもしれないなぁと考えてます。

投稿: るる | 2006.11.06 01:29

ひろさん、コメントありがとうございます!
本自体には、あまりわたしは手放しに共感できていないけれど、
いろいろ考えるよい機会にはなった気がしています。
でも、絵は美しいですよ。とっても!いや、すっごく!!!
とらえ方はきっと、人それぞれですよね。
いい方に解釈してよいところを見つけるのも、ありかな、と。

投稿: ましろ(ひろさんへ) | 2006.11.06 16:40

るるさん、コメントありがとうございます。
おっ、読まれていたんですね!さすが哲学好き。←と勝手に思っている。
実は、なかなかこの本はしんどかったのです。わたしには。
著者が聖職者ということもあるのかもしれないけれど、
すっと入ってこなかった部分が多々…それでも記事にしたからには、
やはり惹かれる部分があるからで、なんだか不思議な心地になりました。
わたしにも与えられた使命なるものがあるものなら、
もう少しだけ、耐えてみる価値はあるのかもしれないです。
もがき足掻いてみせましょう。ふふ(笑)

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2006.11.06 16:51

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