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2006.11.11

虹色天気雨

20050510_44001 夢のような時間。それが何気ない日常の中にいくつも散らばっていることに、わたしたちは何かにつけて忘れがちだ。昨日のことでもいい。たった数時間前のことでもいい。思い出せば、きらめくようなものになることに気づけないでいる。今も、かつても。これからも。泣いても。悔しくても。辛くても。そんな、くじけないで歩き続けているあなたへ、わたしへ向けられた、大島真寿美著『虹色天気雨』(小学館)を読むと、ふっとやわらかな思いに包まれるのだ。ときどきくくくっと、笑いながら。いつまでもこの物語の世界の中に浸りたくなる。また、その後に残る、このままずっと生きてゆきたい…という気持ち。ネガティブ思考のわたしすらも変える、愛おしい時間がここにはある。確かなものとして。ちゃんと。

 物語は、突然の電話から始まる。幼なじみの友人である奈津の夫が、突然失踪してしまうのだ。そこで、夫捜しに奔走する友人の子供である美月を預かることになって、主人公の市子は、いつのまにやら周囲に振り回されるように巻き込まれてゆくのである。他人の心配どころではない事態に発展しようとは、つゆ知らず。いい仲間に恵まれて、胸がほっこりするような楽しい時間…と思いつつ、なかなかどうして寂しい時間もちゃんとある。時間は確かに流れている。それが不思議と、わたしたちの日常そのものなのである。些細なことに憶病になって、些細なことに一喜一憂する。それが身近に感じられるほどに、愛おしさは増してくるような気がする。ゆっくりと。じわじわと。

 仲間。奈津の他にも、まり、三宅ちゃん、究さん、土方さんなどなど、いい脇役ぞろいである。お互いがそれぞれの生活を持ちながら、それでも付かず離れずの関係が続くということ。その奇跡みたいな大人同士の関係が、わたしはとても好きだ。奈津の夫の失踪に至っては、間接的にそれぞれが関わっていて、それぞれに思い合い、少しずつ探り出し、ゆっくりと紐解かれてゆく様がおかしい。誤解が誤解を呼ぶこともあるし、思わぬ方向へ話が進むこともある。例えば、あんな人がいた。こんな人がいた。そういう過去めぐりも悪くない。振り返ることは決して、悪いことではない。本当に大切なものは、いつまでもちゃんと手のひらくらいには残る。記憶として。そう、ちゃんとね。未練とかではなく、ね。

 それから、物語の中での“おめでとう”が素敵だ。著者は、こんなふうに表現している。“たった一人で歩いているこの道を、たった一人で歩いているべつの人が、すれ違いざま声をかけ合うみたいに”と。明るくも暗くも、そうやって“おめでとう”を言い合うことが、どれほどまでに人と人とを結びつけるのかを考えさせてくれる一文である。そう、今年もあとわずかになる。そんなときに、わたしは心から誰かに“おめでとう”を言おう。もしも誰かのお祝いがあったとしたら、やっぱり心から“おめでとう”を言おうと思う。そうやって、一言でも誰かと言葉を交わせたならば、ほんの少しでも日常がぱっと華やいでくるような気がするから。そうして、そんなささやかな事柄にきらめきを見出すのも、ちょっと楽しいじゃないかと思うのだ。

4093861765虹色天気雨
大島 真寿美
小学館 2006-10-20

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コメント

こんばんは。
やっと、TBできました。
大島さんの本は、「かなしみの場所」から「香港の甘い豆腐」など、読んでいて、不思議と心地よくなります。
この作品は、奈津の娘・美月ちゃんがいい味を出していますね。

投稿: モンガ | 2006.11.12 00:59

モンガさん、コメント&TBありがとうございます!
深夜だと、どうもサーバーがかなり重くなるようで、
いろいろとご迷惑おかけしました。すみません。

わたしも大島さんの作品は、すごく心地よく読んでいます。
いいですよね。ほっこりするというか。
今回は、美月。よかったですよね。ホント、いいスパイスでした!

投稿: ましろ(モンガさんへ) | 2006.11.12 21:50

ましろさん、こんにちは!
TBに成功したらコメントを~と思ったのですが
やっぱりエラー続きでした。ごめんなさいね…。
また改めてトライしてみますね。

大島さんの作品、今回ますます温かで優しくて心地良く読みました。
人との繋がりがこんなにも素敵なことなんだ!とハッとさせられました。
大勢の仲間とわいわいするのが苦手な私が、実はすごく人恋しくて
最も繋がりを求めていたんだ、とそんな隠されていた自分が
露見されて戸惑いながらも受け入れていました。
大島さん、毎回読むたびにどんどん良くなっていて新刊が楽しみです♪

投稿: リサ | 2006.12.23 21:59

リサさん、コメントありがとうございます!
TB。やっぱり無理でしたか…どうもサーバーとの相性が悪いみたいですね。
ご迷惑おかけして、すみません。こちらこそ、ごめんなさいです。

大島さんの作品。ほんとうに心地よい読後感ですよね。
わたしも大勢でわいわいは苦手なのですけれど、
読みながら羨ましくなっちゃいましたよ。にぎやかもいいなぁと。
ホントはわたしも、人恋しいのでしょうか(笑)
一人がいいわ。落ち着くわ。呑気だわ…なんて強がっているだけかも知れないです。
新作の「青いリボン」。児童書ですが、いいですよー。
わたしの中では、コンプリートを目指したい作家さんです♪

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2006.12.24 08:17

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虹色天気雨 大島 真寿美  270 ★★★☆☆  【虹色天気雨】 大島 真寿美 著  小学館  《やっぱり女性ための女性友情小説かな》  内容(「BOOK」データベースより) ある日突然、幼なじみ奈津の夫・憲吾が姿を消した。市子は、夫捜しに奔走する奈津から一人娘の美月を預かる。女性の影もちらつく憲吾の失踪だったが、市子も、まりも、三宅ちゃんも、究さんも、土方さんも、いつもと変わらず、美月の運動会に集まった。事態はやがて、市子の元恋人も登場して意外な展開を迎える。  読... [続きを読む]

受信: 2006.11.12 00:48

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