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2006.11.10

公園

20061110_028 見つめられる側と、見つめる側。思われる側と、思う側。わたしは確かにあの頃、見つめる側であり続けた。思う側であり続けた。そう、あの頃。確かにあの頃のわたしは。そして、今もわたしは見つめ続けたい衝動に駆られて、思い続ける気持ちを必死で堪えようとしている。なぜ見つめるのか。なぜ思うのか。わからないほどに狂おしい、なんとも言えない心地がここにはまだある。魚住陽子著『公園』(新潮社)は、そういう懐かしき日々と今のわたしとを結びつけるような、感性を揺さぶられる作品である。公園という場所を舞台にし、謎めいた“あの人”を登場させて、“あの人”を“あの人”のままにしておく。そうっと。輪郭をぼかしたまま。ずっと。じっと。いつまでも。

 “あの人は今日も来ている”わたしはその書き出しから、物語にするりと入り込んで読んだ。こんなにも至福の時を味わったのは、とても久しぶりである。もう何度も読んでいる作品なのにもかかわらず、毎回するりと入り込ませてくれる。それはきっと、読むたびに違う一面を見つけるから。そして、わたしが見つめ続ける側であるからに違いない。今日も来ている“あの人”。その“あの人”のように見つめているのは、わたし。嗚呼、この物語にはわたしがいる。そんな愚かしい錯覚さえ覚えるほどに、この物語の“あの人”に強いシンパシーを感じずにはいられないのだ。もちろん、“あの人”はひとりきりじゃない。たくさんの“あの人”がいて。“あの人”を見つめる誰かがいる、のだけれど。

 物語の語り手は複数いて、その誰もが“あの人”を見つけてしまう。公園という場所で。それも大きな広い公園で。だから、必ずしも“あの人”が来ていることに気づくことができないし、“あの人”の姿を見られないと不安になったりもする。それぞれが見つけた“あの人”は、結末ではゆっくりと幾重にも張りめぐらされた線となって結びつくのだけれども、それでも物語の輪郭は不思議となめらかなまま余韻となって残るのだ。その余韻が、不思議と心地よいのである。曖昧にぼかされて、明確にされないこと。それがこんなにも心地のよいことだったとは…という発見があるのだ。読まずにはいられない物語。続きを紡ぎたくなるような物語。まさにそういう物語だと言い切ってしまいたい。

 わたしのあの頃。それはもう、遠い記憶になっている。それでも色褪せずに残っているのは、あまりにもじっと長く見つめ続けたせいだと思うのだ。わたしが見ていたのは、公園ではなくて校庭だったのだけれども、休み時間も放課後も必ず見つめていた。ときには、図書室の窓辺から、校舎の死角となる日陰から。じっと。ただじっと。一歩も動くこともできずに、ただ見つめていた。そんな憶病なわたしの見つめる先にあったものを感じ取ったのは、“あの人”だった。わたしを見つめていた“あの人”。何かをじっと見つめるわたしを、さらに見つめる人がいたのである。そのときの驚き。あの瞬間。忘れもしない。“あの人”は去りゆくときに言った。“好きだよ。でも、おまえの好きな奴には、俺は何もかなわないな”と。

4103840021公園
魚住 陽子
新潮社 1992-08

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コメント

最後の段落を読んでいたら、「これはストーカーの女バージョン
か?!」と思ってしまいました。

でも、最後まで読んだら「ドラマ」がありました!(ホッ)

投稿: デミアン | 2006.11.11 12:47

見つめられる側と見つめる側ですか、微妙に分かる気がします。
最後にドラマがあるんですか、それは救いですね、そのまま終わってしまうと悲しい結末になってしまいますものね。

投稿: ハンガン | 2006.11.11 15:28

デミアンさん、コメントありがとうございます。
確かにわたしは、ストーカーっぽかったかも…。う。
でも、その後ちゃんと告白しましたし、友情めいたことに発展したり。
それもこれも、“あの人”のおかげです。
でも、小学生の頃のことですよ(笑)

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2006.11.11 19:19

ハンガンさん、コメントありがとうございます。
ええと、実はあまり救いのないドラマだったり…するんですよ。
でも、そこは文体で読ませるというか、感性で引き込むというか、
とても、いや、すっごく心地よい作品です!
魚住陽子さんの作品は、ホントお薦めですよ。

投稿: ましろ(ハンガンさんへ) | 2006.11.11 19:22

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