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2006.11.02

子猫が読む乱暴者日記

20061102_014 とろん。とろん。とろろん、とろん。わたしは雨音の中、夢の入り口で迷ってみる。右か左か。さては真っ直ぐかと。どの道も険しけれども、幾分かは異なることを願って、ただただ祈るように進む。どうかこの悪夢が長く続かないことだけを思いながら…。中原昌也著『子猫が読む乱暴者日記』(河出文庫)の本能のままに従う感情的な言葉を読みながら。そして、憎しみただ1つだけがリアリティになる瞬間を知った。そこにある虚しさたるや、計り知れないことを。それでも、にっと笑みがこぼれる。結末の無意味さに、にっ。なんとも言えぬ展開に、にっ。未知なる感覚に、にっ、である。あまりにも剥き出しのそれらは、わたしを“にっ”とさせたのであった。

 “子猫”とタイトルには銘打ってあるが、ここに描かれているのは、決して子猫好き向きの物語ではない。何しろ猫は、あくまでもお飾りにすぎず、物語の芯にあるのは、人間の激しい欲望や過剰なる自意識というものの塊であるから。中でも、収録作品の「闘う意志なし、しかし、殺したい」は、まさにその核となる作品であるような気がする。タイトルからも伺える、その無責任さと、無意味さと、理由なき衝動。それこそが、著者の描きたい世界ではないか、と。にっ、と笑みを誘いつつも、すべての人々の心の奥底(主に妄想)を見透かすかのごとくの描き方であるからして。そして、ときには感動すら与えるものであるからして。恐るべき人だ…そう、わたしは感じている。

 けれど、著者はあとがきで云うのだ。“世の中には読むべき本が沢山ある。その事実を知らない人が間違ってこういう本を選んでしまう…”と。嗚呼、なんてことを…。これを読んでにっ、となったわたしは大馬鹿者ではないか…。それでも、大馬鹿者でも阿呆でも間抜けでもいい。わたしはこの著者の作品を楽しんだのだから。好ましいものとして読んだのだから。娯楽としての読書、万歳。無駄な時間の消費も浪費も万歳ではないか。この暴走にこそ、必読の価値があるのだから。本当に必読本となるのは、読み手の受け取り方次第で決まる。正しい読書なんぞ、どこにもないのだ。自らの力でもがいてあがいてこそ、見つかるもの。それが至福の時間というものの極みである。

 とろん。とろん。とろろん、とろん。忘れ水のごとく流れる雨音を聴きながら、脳内が柔軟にとろけてゆく感覚。甘い香りに誘われるままに、そうやって遊ぶのもときには悪くないものだ。読書でもそんな甘い夢を見られることを、どうか知って欲しい。現実とも夢とも見分けのつかぬ悪夢にうなされるよりも、ずっとずっと有意義な夢がここにはある。そう思いたいわたしは、逃避の状態にあるかもしれない。だが、たった1つでもいい。ただ1つのリアリティをどこかに見出すことができたのならば、救われる気がするのだ。つまりは自分の存在意義に。今置かれている状況に。四面楚歌の日々にも。誰にでも。いつでも。手を伸ばせば届く場所にあることに、ふと気づくことを。

4309407838子猫が読む乱暴者日記
中原 昌也
河出書房新社 2006-02-04

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コメント

ぎゃー。
イラストが衝撃的だわ。

投稿: ちもたん | 2006.11.03 12:12

すげえ、すげえ、怒涛のレビューアップですね。
久しぶりに、ましろさん文章をまとめて読みました。
なんとなく、うまくなってないかい?
集中力に感服いたしますでございまする。←へん!

投稿: あらき・おりひこ | 2006.11.03 14:08

ちもたんさん、コメントありがとうございます!
そう怖いでしょ?でも、中身はもっと衝撃的ですのよ☆

投稿: ましろ(ちもたんさんへ) | 2006.11.03 17:33

あらき・おりひこさん、コメントありがとうございます!
そう。怒濤のレビューアップです(笑)でも、そんなに長くは続きませぬ。
毎日書きまくってレビューも書きまくって…それでうまくなってなかったら、
かなりショックでございまするよぅー!
嗚呼、脳がぐるぐるです。かなり。それもまた、素敵☆

投稿: ましろ(あらき・おりひこさんへ) | 2006.11.03 17:37

「猫」と付くとなんとなく買ってしまうオレも、
立派なおばかさん・・・

投稿: 猫目堂 | 2006.11.04 12:14

猫目堂さん、コメントありがとうございます!
わたしも「猫」と付くとなんとなく吸い寄せられるように、
惹かれてしまう…重症の猫狂いでございまする。
仲間が見つかったわ♪

投稿: ましろ(猫目堂さんへ) | 2006.11.04 22:06

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