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2006.11.07

温室デイズ

20050610_44134 思えばわたしは、ずっと生温い場所に身を置いている。そこは必ずしも快適と呼べるような場所ではなかったが、こうして今もなお、身をおける場所があるということには感謝すべきなのだろう。学生でもない、社会人でもない、かといってニートでもない。そんな微妙なカテゴリーに属することが、決して幸福でないことを知っている。けれど、やはりここは、世間一般で言うところでは、生温くて甘い場所に違いないのだった。瀬尾まいこ著『温室デイズ』(角川書店)を読みながら、わたしはずっとこうして自分の身の置き場所を考えていた気がする。曖昧な分類。曖昧な環境。曖昧なわたし。何もかもすべてが、生温くて曖昧にぼやけてゆく。そんな中でまどろみ、自分の輪郭さえも見失ってゆくような感覚に陥る。

 温室。物語で言うところのそれは、義務教育というものなのだろう。幸いにして義務とされているからには、学生という身の保障があって、実に生温い未熟なわたしたちが、かつて属していた世界である。ドロップアウトしてもなお、それが保障されてしまう今の時代。甘い環境が延々と続いてゆく。そして、実態としてある問題に対して、目を背ける学校の教師たち。彼らには、最低限の教育の本質も義務感の欠片も感じられない。それを利用して、陰湿な行為を繰り返す生徒たちは、まるで義務教育というものを武器にして、好き放題に振る舞っているかのようなものだ。物語は、こうした現在抱える学校の問題を、そのままさらりと描いているのである。

 ドロップアウト。それを、登校拒否なるものや、不良と呼ばれるような者たちを指すかたちで物語は進む。そんな中、いじめにも屈しない、みちるという少女の存在は際立っている。彼女の芯にある強さ。それが、なんとも逞しく輝いて見えるのだ。もちろん、それは彼女がかつてリーダー的存在だったせいもあるし、精神的な面において強さを持っていたからでもある。そして、そこには間接的ながら救いの手を差し伸べる人たちがいて、彼女の強い信念を支えているからでもある。それは、もちろん彼女の人徳というもので、この物語は、彼女あってこそのものであるといってもよい。しかも、ドロップアウト側からの視点でも読めるのが、心憎い演出である。全く持って、抜け目ない。

 なんやかんやと、とやかく言うわたしの生温い場所。つまりはそこもまた、ある種のドロップアウトの結果であるに違いない。今のわたしは学生でもなく、社会人でもなく、ニートですらないのだから。義務教育時代のわたしは、確実に利口なドロップアウト側だった。それがいつのまにか、生真面目ゆえのお馬鹿さん的ドロップアウト側に変化して、もう戻れないドロップアウト側の位置にまで到達していたのである。気がついたときは、もう遅かった。そして、思い返してみれば、もう生まれたその瞬間から、わたしのドロップアウト人生は始まったと言ってもいいくらいのものだった。けれどもう、過去にすがるのは止めた。今置かれたこの生温い場所で、生きるしかないと決めたのだから。

4048735837温室デイズ
瀬尾 まいこ
角川書店 2006-07

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コメント

「生温い場所」という言葉に不思議な印象を受ける。

ちなみに、僕も生温かい場所の住民の一人なのだろう。

確かに一般人からすれば生温かい場所で生きているよう
に見えるかもしれない。

しかし、その生温かい場所で生きている僕から言わ
せれば、この「生温かい場所を」その言葉どおり、
「生温かい」と感じたことは、ただの一度もないね。

もっとも、逆説的な意味合いで使われている言葉なの
だろうけど。

投稿: デミアン | 2006.11.07 15:37

デミアンさん、コメントありがとうございます。
そう、そうなのです!確かに生温くないっ!!!
苦しいですよね。もがきあがいてますよね。
当人にしかわからない辛さというものが、今あるというのに。
でも、世間から見れば甘いのだとは自覚せねば…
そんなことをわたしは思うのです。
忘れないために、刻み込まねばと思うのです。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2006.11.08 20:55

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