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2006.11.16

卵の緒

20050511_44050 家族の在り方ってなんだろう。ふとそんなことを考えた。家族の在り方そのものの、根底を揺るがされた気がしたからだ。わたしは確かに家族に恵まれている。小さな頃は、そんなふうに思ったことなどなかったけれど、今はそうはっきりと言える。このわたしというちっぽけな命を救ってくれたのは、他でもない家族であったし、今も変わらずに接してくれている。いや、小さな頃以上に、わたしを受け入れてくれている。瀬尾まいこ著『卵の緒』(マガジンハウス)を読んでいると、不思議と家族の愛情を呼び起こさせてくれる。いつもは忘れがちなこと。いつもと変わらない朝。いつもの何気ない言葉。いつもと変わらない食卓。そういうものが、たまらなく愛おしい存在に思えるのだった。

 表題作「卵の緒」。これは、血の繋がりのない母と子の物語である。それでも、深い愛情の中で、誰よりも絆を感じさせる親子関係を築いている。そして、そこに新たな家族をも受け入れるまでを描いている作品だ。また、そのやり取りが、なんともいい感じで、思わずふふっと笑ってしまうほど、ほっこりさせられる。もちろん、描かれていない部分には、多くの葛藤や苦しさみたいなものが存在しているに違いないのだけれども、物語は暗い闇の部分を感じさせない。家族という概念をくつがえすような、無条件の愛情や絆というものをじんじんと胸に響かせる展開である。タイトルの妙は、へその緒からきていて、そのあたりのくだりもなかなか面白い。

 書き下ろし作品の「7’s blood」もまた、家族の物語である。といっても、なんとも複雑なかたちをしている。七子と七生。名前では見事なまでに姉弟であるけれども、彼らは腹違いの姉弟である。父親はとうに亡くなり、七子の母親は病気で入院。七生の母親は刑務所。そんな境遇の中で、二人だけの奇妙ながら濃密な時間が流れてゆくのだ。それはあまりにも、早い別れとなってしまうのだけれども、ヘンに大人びた要領を得た七生の存在は、七子にとっての救いのようなものとなるのである。二人はもう二度と会えないかも知れない。敢えて、会わないかも知れない。それでも、二人で過ごした時間はきっと、いつまでも残るに違いない。心の奥底にずっと。いつまでも。

 家族の在り方というもの。それは、時代と共に変わってきているような気がする。新しい家族のかたち。それをこの作品によって考えさせられたわたしとしては、わたしの家族の在り方など、ごくごくありふれたものに違いない。ただし、長い年月をかけてようやくたどりついた今の家族の在り方というものに、わたしの家族なりの時間が、確かに流れていたと思うのだった。それは、ありふれていながらも、特別な時間であり、ゆっくりではあるけれども途切れることなく続いてきた、証のようなものとなっている気がする。何も言葉でちゃんと伝える必要はないほどに、お互いがお互いを思い合い、心配しながら、ときには助け合いながら、そうして繋がっているものだと思うのだ。

4838713886卵の緒
瀬尾 まいこ
マガジンハウス 2002-11

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コメント

こんにちは、ましろさん。
コメントありがとうございました。
家族の在り方、平凡であればあるほどに家族の繋がりとか、家族の幸福とか見失いがちな感じがします。
瀬尾さんの作品は、玄人・クロウトの作家(こんな表現が適切なのか?)にないものがあり、ちょっと身近にいる人の感じがするから良いのでしょうか。国語の教師であり、言葉の楽しさを伝えたいので先生は辞めるつもりはない、と言うようなコメントを聞いた事があります。
私は、初期のこの作品などが好きです。

投稿: モンガ | 2006.11.18 13:01

ましろさん☆こんばんは
この物語のように、愛のある母親に育てられる子供って幸せですよね。
家族って人間にとって一番基礎になるものだから、どんな家族に育てられるたのかって重要です。
こんな時代だからこそ、家族の大事さを考え直さねばと思います。

投稿: Roko | 2006.11.18 20:00

モンガさん、コメントありがとうございます!
そうですね。確かに平凡であればあるほどに、
きっかけがないと家族の在り方というものを考えませんよね。
瀬尾さんの作品。モンガさんは、読み込んでらっしゃる様子で。
わたしは既に2冊挫折しているので、ど、どうしましょう…
(ちなみに「優しい音楽」と「図書館の神様」デス。)

投稿: ましろ(モンガさんへ) | 2006.11.20 23:19

Rokoさん、コメントありがとうございます!
親の愛情は大切ですよね。ある程度の年齢になると、
育ちというものが雰囲気やらなにやらに現れてきてしまうのが、
少しばかり怖いですが…。ホント、今は嫌な時代です。
そう思ったり感じたりするのは、わがままかもしれないけれど。
つい。イヤー!って、言いたくなってしまうこの頃です。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2006.11.20 23:23

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