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2006.10.17

るきさん

20061003_99046 さやさや。ささやかなる生き方なるもの。穏やかなるその流れに身を任せて、そよぐ風たちに吹かれてみる。それもまたどうしてか、なかなか悪くないものである。そんなことを思う日常に、ぴったりしっくりくる1冊がある。漫画をあまり読まないわたしにはめずらしく此処に紡ぐのは、高野文子著『るきさん』(ちくま文庫、筑摩書房)である。どこかほのぼのとする絵柄ではあるのだけれど、そこにあるスパイスたるや、ぐぐぐっとのめり込ませるものがあるように感じられる。『絶対安全剃刀』からはまった、この高野さんの魅力。そう、つまりは高野的風に吹かれつつ、わたしは穏やかながらも刺激的な世界と戯れていた。大げさに言うと、そんな感じが一番的確な気がしつつ、さやさやと紡ごう。

 主人公のるきさんは、どうやら30代の独身女性。新宿近くあたりのアパート(想像デス)にて、自宅での仕事をしている。生活自体は庶民的。むしろ、少し苦しいくらいなのだけれど、るきさんは彼女なりの生き方で、それを満喫している。一般的に言うところの常識。そこに左右されることなく、なんとも逞しく生活している。ひと月分の仕事を一週間でこなし、月末に“終わりましたぁ!”というあたり、なかなか凄腕のるきさんである。時代をこえてもなお、るきさんはるきさんである。だから、1992年までの作品ながら、古くささを感じることはない。或る意味それは、普遍的な人間的部分が多く描かれているせいかもしれない。人間の本質の根本とも言えるような。

 さて、ここからは数多くある『るきさん』の物語の中から、1つだけお気に入りのものを紹介してゆく。それは、るきさんの人間的魅力を描いた、1990年5月31日の作品である。電車のドアにはさまりやすい、るきさん。踏切にて、見事なまでに降りてくる遮断機にぶつかる、るきさん。これは運動神経の問題かもしれないが、その見事なまでのズレに対する、るきさんの対処の仕方は格別に冷静である。つまりは、慣れ。いわゆる、自分という人間をよく知っているということ。わたしはそんなふうに解釈した。自分をわきまえるということ。その難しさを思えば、さらさらっと描かれる、るきさんのこういう一面に、はっとせずにはいられない。わたしはわたしをわきまえているだろうか、と考え込んでみたくもなる。

 また、この『るきさん』で忘れてならないのは、るきさんの友人である、えつこさんの存在である。お互いに同じくらいの年齢。独身。一人暮らし。という共通項はあるものの、彼女は外で働く人。一体、どこでどうして知りあったのか。その謎は、読めば読むほどに深まってゆく。しかも、実によくるきさんのところに遊びに来るのだ。“ちょっと寄ってみたぁ!”的に。そこから推測するに、どうやら彼女は新宿からは少しばかり不便なところに住んでいて、なおかつ、るきさんと同じ沿線に住んでいるのでは…と。そして、お互いを知り尽くしつつも、許し合えるほどの親密さを保ちつつ、べったりするほどの関係ではない。なんともいい距離感を持っているのだ。こんな友人、ホントいいなぁ。まさに、さやさや。いい感じなのである。

4480032118るきさん (ちくま文庫)
高野 文子
筑摩書房 1996-12

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4592760166絶対安全剃刀―高野文子作品集
高野 文子
白泉社 1982-01

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コメント

こんにちは、ましろさん。

『絶対安全剃刀』、興味をそそられました。
読んでみたいです。

投稿: ゆら | 2006.10.18 16:52

ゆらさん、コメント&TBありがとうございます!
タイトルからそそられますでしょ?
『いとしさの王国へ 文学的少女漫画讀本』から、惚れました★

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2006.10.18 17:32

るきさん。大好きです。
あたしの愛読書。
なのに、あちこち持ち歩いていたせいか、最近見つからなくて。
本棚のどこかに隠れているのかな。
るきさん、出てきてー(笑)

投稿: ミメイ | 2006.10.19 02:21

ミメイさん、コメントありがとうござます!
愛読書でしたかー!さすがですね。
るきさん、かくれんぼ、面白がっているかもしれないですね(笑)
どうか出てきてー!!!

投稿: ましろ(ミメイさんへ) | 2006.10.19 04:50

ましろさん

少しみないうちにまたまた記事が増えてました。
絶対安全剃刀は昔読んだのでTBを貼らせてもらいました。
コマ間が深いです。マンガでしかできない表現ですね。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2006.10.20 23:25

竹蔵さん、コメント&TBありがとうございます!
ここのところ、更新が頻繁になっております。なんとなく…ですが。
高野作品。コマ間、確かに深いですよね。
さりげなくなにげないのに…
他の作品ももっと読まねば、と思ってます。

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2006.10.21 06:08

わたしも「るきさん」、大好きなんです。
るきさんだけじゃなくて、他の高野文子作品もたいてい好きです。「黄色い本」とか、「棒がいっぽん」とか…高野ワールドは全部が理解できているわけじゃないんですが、そこも魅力的です。TBさせていただきました(*^_^*)

投稿: まみみ | 2006.10.29 22:00

まみみさん、コメント&TBありがとうございます!
高野作品お好きでしたか!やはり、読書の幅がすごいですね☆
わたしはまだ、全作品を読んでいないので、
これからもっと読んでゆきたいと思っています。

投稿: ましろ(まみみさんへ) | 2006.10.30 13:11

いま、『棒がいっぽん』を読んでいるところなので、『るきさん』のレビュー、興味深く拝読しました。
初・高野文子なんですが、はやくも高野ワールドにはまりつつあります。
いいですね。

投稿: ぐら | 2008.04.25 19:45

ぐらさん、コメントありがとうございます!
高野ワールド。いいですよね~。
『棒がいっぽん』は未読なので、ぐらさんがレビューを書かれたら、
ぜひ参考にさせてくださいませ。

投稿: ましろ(ぐらさんへ) | 2008.04.26 11:38

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