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2006.10.30

在日ヲロシヤ人の悲劇

20050227_44019 自己が侵食されてゆく。少しずつ、じわじわと。これは、わたしの思考なのか。はたまた、どこかでの受け売りか。影響されやすいわたしは、ときどきそんな混乱の中で、息苦しくなる。星野智幸著『在日ヲロシヤ人の悲劇』(講談社)を読みながらも、やはりその息苦しさはわたしをしばし、混乱させた。いわゆるインテリ一家の崩壊。政治小説とも、家族小説ともとれるこの作品は、あまりにも悲劇的な作品である。人々は皆、どこかしらにおいて自滅への道を選び、自己というものを見失っている。いや、それを知りつつも、見えない振りをして避けようとする。自分自身から。他者から。すべてから。そうして消えゆく自分というものに、酔いしれるかのごとく死を予感している。確かに感じている。

 リベラルだったはずの放任主義の父親。夫への怒りをためこんできた母親。過激な右翼に染まる娘。独自の左翼を名乗る息子。1つだった家族は、本当は空っぽで、父親は娘に属するかたちで寛大な親を気取っていた。それに対して狡さを感じつつも耐えてきた母親は、娘にかまける夫への怒りを感じ続けていた。それを見ていた息子は、父親への反発から母親を選択し、自らの道をゆく。娘は自分にとって都合のいい父親を選択し、どんどん右翼の深みにはまってゆく。そして、2つに分かれた家族は、母親の自殺によりさらに険悪なものへとなってゆく。和解したかと思わせつつも、その距離は埋まらない。家族というものが、こんなにもあっけない存在であることに、恐怖すら感じてしまう展開だ。

 物語は、右翼に染まった娘である、好美のハンストによる死を描く。家族らの独白という形式で語られるわけだが、政治や思想というものに無頓着なまま生きているわたしには、そのそれぞれの言い分が、どうも釈然としなかった。けれど、伝わってくるのは、自滅へと向かい、それを恐れていないということ。いや、むしろ、それを喜んで受け入れているということであった。娘亡き後の父親は、自分が娘と同じ役割を果たすことで自分を見出そうとし、母亡き後の息子は、母を葬りつつも祀って生きようとしている。それはまるで、同化して共にいる錯覚のようでいて、同じ末路をただたどっているように思えてならない。まさに悲劇の連鎖である。そこには愛情の欠片は、見あたらない。

 “相手の姿は自分の姿、相手の言う言葉は自分の言葉”物語の後半部分で、そんな思考をめぐらす好美の姿は、とても痛々しく胸に響く。それは、彼女に対する肯定でもなければ、否定でもない。ただ、死を身近に感じながら、周囲からの悪意をも感じながら、死にゆくという悲劇がなんとも切なかったのだ。今置かれている状況と過去とが入り混じって交錯するその思考は、自分の死後の家族の姿をも予感していた。そして“お互いが誰かを写し合っている限り、死ねない”とまで思うのだ。自分の無意味さ。そこにすら意味を見出した部分には、なんとも言えない感情がよぎる。こんなにも寂しくて苦しい生きざまに。こんなにも、もがき足掻いた生きざまに。彼女の死に。安易に死を選びがちな、この世の中の今にも。

4062129515在日ヲロシヤ人の悲劇
星野 智幸
講談社 2005-06

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コメント

写真に注目してしまいました。本がたくさんですね。
これはお兄様作の机でしょうか?
天然の木の感じがとても良いです。

「在日ヲロシア人の悲劇」あまり悲劇などには触れずに知らん振りして
生きていきたいと思っていますが、ましろちゃんの文章を読んでいたら
興味が沸いてきてしまいました。おそるべしましろマジック。

投稿: ちもたん | 2006.10.31 12:49

ちもたんさん、コメントありがとうございます。
わーい。興味を抱いてもらえたとは…!!!嬉しい限りです。
わたしも内容的には興味がほとんどなかったのに、
星野智幸マジックにやられてしまいました。ぽっ、と(笑)

ええと、画像はわたしのベッドの本棚です。ちなみに父親作です。
家族みんな器用だから、くやしいの…。でも、ありがたい★
天然のなめらかな材質と色合いと、すべての角がなめらかなラインになっているのが、
かなり気に入っております。

投稿: ましろ(ちもたんさんへ) | 2006.10.31 14:01

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