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2006.10.13

列車に乗った男

20060712_012 変化というもの。それに人は、怯える。その結果、ときに人は悲しむ。そして、ときに人は喜ぶ。変化に対する恐れ。それは一体、どこからくるものなのだろう…。わたしは、クロード・クロッツ著、藤丘樹実訳『列車に乗った男』(アーティストハウス)を読みながら、そればかりを思っていた。今の暮らし。今あるもの。今在る自分。それらを捨て去ることは、とても怖い。過去と今との荷物を手放すことは、思えば簡単かもしれない。では、そこに横たわる、様々な想いはどうだろう。そこに横たわる、様々なしがらみはどうだろう。わたしたちはそれを簡単に切り離すことなど、果たしてできるのであろうか。ぱっと手を離すこと。放つこと。それは、変化の一歩でしかないのに。

 この作品は、パトリス・ルコント監督の映画「列車に乗った男」の原作本である。寂れた小さな街から出られない男と、ひとつの街に留まったことのない流れ者の男。この2人が出会い、互いに自分にないものを見出し、別れゆく物語である。わたしは、この原作よりも先に映画で物語を知っていた。映画によくありがちな、モノローグという形式のないストーリー展開だったせいか、2人の心持ちというものがはっきり伝わってこなかった。けれど、ときどき“くすっ”と笑みがこぼれてしまうほどに、魅力的な作品であったことが印象に残った大好きな作品の1つだ。不器用で時代遅れで、あまりにも長い年月にわたる、彼らの葛藤。深く刻まれたシワと共に伝わってくる想い。それがたまらなく、愛おしかったのだ。

 原作では、映画とはまた違った意味合いで、魅力的な部分がたくさんある。2人の心情や、少しずつ変わりゆくもの。それはきっと、原作ならではのものだろう。様々なエピソードに纏わる細やかな背景は、映画にはなかったものばかりが登場する。中でも、女性に対する倒錯についての部分は、2人の男、寂れた小さな街から出られない男ミランと、ひとつの街に留まったことのない流れ者の男マネスキエとの違いを明確にする、バックボーンが面白い。自分は決して、他人になることなどできない。それはわかりきったことだけれど、“羨む”というものとはひと味違った、“憧れ”を読みながら堪能することができると思う。人生の大切な部分。そこをどう生きたか。どう生きるべきか。自分の価値というものは何か…そういったことを感じながら。

 ミランとマネスキエ。彼らは、たったの4日間という短い出会いと交流の中で、偶然にも必然にも多くを学び、様々なことを互いに思い合う。そして、ふと気づくのだ。自分になかったものを。必要だったものを。ミランには、マネスキエが。マネスキエには、ミランが。彼らの中にあったもの。それが、自分の欲していたものであることにも。また、自分という存在が相手にどんな影響を与えるのか、についても。そんな2人の関係は、“人は皆、自分のことを知っているようで知らない”。そんなことを思わせる。変化というもの。それに人は、怯える。けれど、怯えてばかりもいられない。いつかは来るはずのもの。避けては通れないもの。それが、変化というものだ。そう思いつつ、わたしも一歩を踏み出したくなったのだった。

4048981668列車に乗った男
Claude Klotz 藤丘 樹実
アーティストハウスパブリッシャーズ 2004-04

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B0002XVT1E列車に乗った男
ジャン・ロシュフォール
ポニーキャニオン 2004-10-20

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コメント

ましろさん

ご無沙汰です。またまた最近たくさん読まれましたね。最近読書時間が取れない竹蔵には羨ましいかぎりです。

仕事の内容や会社などが変わってばかりいる竹蔵はそんなに変わる事への抵抗はありませんが、だんだん体力・気力共に衰えてきているせいか、最近少しだけ怖くなることがあります。でも、気を取り直して、変化を楽しむようにしています。恐れていても変わらなければならない時には変わらなければなりません。悪くなったらなったで、”人生これ全て塞翁が馬”と考えて、良く変わることを待つことにしています。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2006.10.14 20:43

竹蔵さん、コメントありがとうございます!
いやいや、なかなか読めていません…更新も滞っておりまして。
“変化を楽しむ”って、いいですね。素敵なことだと思います!
わたしは、変化を楽しむ余裕が足りていないのかもしれないですね。
“人生これ全て塞翁が馬”。わたしも心に刻もうと思います。

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2006.10.15 08:01

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