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2006.10.02

中二階のある家 ある画家の物語

20051010_44002 青。それに惹かれて、なんとなく手にした本がある。わたしはただ、青を求めていた。あのどこまでも澄んだ、果てしなく遠い空のような青を。そして、そこにある哀愁の物語を。それが、アントン・P・チェーホフ作、マイ・ミトゥーリチ絵、工藤正広訳・解説による『中二階のある家 ある画家の物語』(未知谷)という、チェーホフ没後100周年記念出版の作品だった。しかも、わたしにとっての初チェーホフが、この永遠の乙女像を描いたような魅惑の短篇になるとは…。偶然にしても、自称・まだまだ乙女のわたしには、なかなか素敵な出会いの1冊となったわけである。でも、もはや没後100周年は2年前のこと。2年遅れで読んだわたしは、世の中を知らな過ぎる。戯曲があまりに有名なだけに、避けてきたチェーホフ。読まず嫌いはいけないと痛感したわたしだ。

 さて、この物語は画家と裕福な地主の娘との、あまりに刹那の恋物語である。だが、一方では時代背景を考えれば、社会を風刺的に描いた思想の物語としても読めてしまう、なんとも不思議な読了感を残す作品である。優雅な暮らしと農民の暮らしとの落差というもの。農奴解放の時代にチェーホフは、なんとも鋭い視点で世の中を見つめていたに違いない。100年前という時代については、想像力に乏しいわたしにはよくわからないが、今もなお、通ずるところを感じさせる理論としても受け取れる。なおかつ、とろけさせられるようなロマンチックな主観がそこに挟まれてしまったら、もう絶賛せざるを得ない。さすがである。文学史に名を刻むほどの人の作品に、遅ればせながら触れることができただけでも有り難いと思ってしまう。

 話は戻って、青について書いてゆく。そう、この作品の表紙の青。なんともいい青なのだ。吸い込まれるような青。まさに青の中の青。一瞬にして魅了されるほどの、真っ青なのだ。この表紙、及び挿絵についてのエピソードは、訳者による解説を兼ねたエッセイに詳しく書かれており、やはり強く心惹かれたことが伺える。原画の美しいコバルトブルーをいかにして印刷できるものだろうか…。これにかなりの執着を見せたらしく、こんなにも懸命に作られ、出版された本に出会えたことが嬉しくてたまらなくなったほどだ。冒頭にあるとおり、わたしはこの青のおかげでチェーホフを読もうと思ったのだから。こだわりある本に手を伸ばした偶然に驚きつつ感謝し、本の表紙をそっと撫でてしばしの間、青の世界を堪能した。

 最後に、冒頭で使った言葉である“永遠の乙女像”について、少し述べておきたい。といっても、わたしの主観では、乙女は白く華奢で儚げで弱くあらねばならない。幸の薄さも大事である。しかも、必須アイテムとしたならば、もちろん書物である。散歩を楽しみつつ、木陰で読書。それはまさに、絵に描いたような乙女像である。そして、奥ゆかしくて恥じらいの心を持ち、“はい”としか言えない。そんな乙女が、まさにこの『中二階のある家』の中に登場しているのだ。それは、ある意味乙女を美化した究極のかたちなのかもしれないが、わたしはそれを心の奥底で焦がれている。本能なのか。いかなるものか。その点においては自分でも未だに謎であるが、チェーホフの描く乙女像を探るべくして、他の作品も読んでみたいと思っている。

4896421000中二階のある家―ある画家の物語
アントン・P. チェーホフ 工藤 正広
未知谷 2004-04

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コメント

とても読んでみたいわ。表紙の青にも吸い込まれてみたい…。
他にも、ましろちゃんが読んだ本は全部読んでみたいと思ってしまうのだけど。
そうね、乙女は白く華奢でなくちゃね。最近少食にしていたら少しやせて
顔の肉も落ちて少し若返った気がします。華奢って大事ね。
ましろちゃんの腹筋はますます鍛えられているのでしょうか?

投稿: ちもたん | 2006.10.04 09:33

ちもたんさん、コメントありがとうございます!
本当にこの青、いいですよ。乙女の必読書と言ってよいかも。
なおかつ、薄いのでオススメです。絵本でもいろいろ出ているみたいですよ。
そう、そしてやはり乙女は白く華奢です☆(笑)
やつれ過ぎちゃうまでにいかないように、どうか若返ってくださいませ。
わたしは、そのままのちもたんさんが素敵だと思ってます!
充分若いのだから、無理はしないでくださいね。

わたしはといえば、乙女なのに腹筋怖いデス…
さらにバージョンアップ中。ヨガってすごいですよ。

投稿: ましろ(ちもたんさんへ) | 2006.10.04 18:19

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