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2006.10.23

ロストターン

2005424_013 移り変わる。人も心も季節も、あらゆるすべてのものが。何もかも、同じ場所には留まっていられずに、移り変わってしまう。移り変わらずにはいられない。一所にじっとはしていられないのだ。もしかしたら、森羅万象に至るまで。ブルック・ニューマン作、五木寛之訳、リサ・ダークス絵による『ロストターン』(集英社)は、そんな思いをめぐらせる愛しい1冊である。この作品は、普通の翻訳モノとは違って、創訳というかたちをしているらしく、本来ならばもっとスピリチュアルな部分が多いらしい。けれども、そういう部分を訳者ならではのわかりやすい視点で描いており、違和感なく1つの物語として、素晴らしい絵と共に心地よく読める作品となっている。『リトルターン』の続編でもある。

 物語の主人公は小さなアジサシ、リトルターンという1羽の鳥である。スリムで黒い帽子のような頭部を持ち、2つにわかれた白い尾の海鳥。動作は軽いが、地上を歩くことを苦手とするような鳥である。けれど、このアジサシ、リトルターンは、ある嵐の夜に、息をひそめることに耐えきれずに、飛び出してしまうのだ。そして、嵐の中心である渦の中に呑み込まれ、方向感覚を失い、嵐の静まる頃には、自分の居場所を見失ってしまうのである。まさに、迷子のロストターン。けれど、そんな中、その嵐によって家族を失った漁師である老人と出会い、さまざまなことを学んでゆく。同じような境遇の1人と1羽。その不器用ながらも、なんとももどかしい交流が胸を揺さぶる。

 漁師の老人。彼にとっての故郷は妻だった。そして、彼にとっての人生は息子だった。そして、その2つの大事なものを、一気に失ってしまったのである。自暴自棄になった彼は、港へゆき、ゆくあてもなく船を出して、海を漂っていたのだった。そこへ1羽のターンがやってきて、同類のような思いを抱きはじめる漁師。そこまでに至る経緯には長く時間がかかるのだが、いつの間にか、漁師はターンに語るようになっていた。“この世界に存在するものは、一瞬として同じままではない”と。絶頂をきわめれば、再び訣別の時がやってくる。そう、つまりはすべてが移り変わるのだと。ターンは漁師から多くを学び、そして漁師はターンから、生きる力のようなものを得たのだった。

 わたしは、ターンの思考の中で、迷うところが好きでたまらない。居場所を求めて。元いた場所である、故郷を探して飛び続けるターン。そうして、ふっと漁師の言葉を思い出すのだ。嗚呼、そうだ。こうして迷っている自分も仮の姿ではない。迷っているこの場所こそが、自分の居場所なのだと。わたしたちは日常の中で、何かを探している。楽しいこと。面白いこと。多くは、自分の居場所というものを。けれど、考えてみれば、それは探している自分や迷っている自分を排除した思考である。また、今の自分というものを放り投げて、足下を見ずに空回りをしている状態のようにも思える。“どこにいようと、それが自分のホーム”。つまりはきっと、わたしたちはいつでもわたしたちの居場所にいるのだ。わたしは少しだけ、それを信じてみたい気がする。

Lost Tern リトルターン

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コメント

この二冊、以前枕元に置いて、毎晩夜休む前に読んでいました。
なんだか懐かしいです。
ましこさんのレビューの方に本を読んだ時よりも感動を覚えました。
もう一度、再読してみることにします。
若い頃から、五木寛之があまり好きな作家ではなかったので・・・・・

投稿: マリリン | 2006.10.24 13:58

マリリンさん、コメントありがとうございます!
読まれていたのですね、この本!!!さすがです。
レビューに感動を覚えてくださったなんて、嬉しい限りです。
特に、今回は自信がなかっただけに…ありがとうです。
実はわたしも、作家さんとしての五木さんは苦手でして…
「かもめのジョナサン」とか、この本のような作品は大好きなんです。
五木さん、ごめんなさい…(笑)

投稿: ましろ(マリリンさんへ) | 2006.10.24 16:07

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