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2006.10.16

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

20061015_008 ほろほろと鳴く。わたしの中で。その存在を思って。いわゆるそこにある意義と価値とを思って。ほろほろと鳴く。心が鳴く。泣けずに鳴く。痛いと鳴く。居場所を探して鳴く。ただただ鳴く。わたしが、本谷有希子著『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(講談社)を読みながら、唱えていた呪文。ほろほろ。“ほろほろ鳴くのは、何だったか。ああ、そう、きっとホロホロ鳥ね。食べるときっと、おいしいわ。おろろんよりも、やっぱりほろほろでしょう。そうね、きっとおいしいはず…”なんてことを思いつつ。わたしの中の自意識をフル動員して、ほろほろと読んだわけである。この、ありえないくらいの自意識と憎々しい狂気を秘めた物語を。そして、あまりにもそこからかけ離れた世界の住人の物語をも。

 腑抜けども。即ち、ばかどもめぇ。そこに愛はあるのかい…なんて言葉を想起してしまうほどに、この1冊はどこまでも浅はかで、それでいて過剰なまでに深い悲しみに満ちた物語だと思う。生きること。それはもしや、演じることなのか。それとも、演じること。即ちそれが、生きることなのか。わたしたちは皆、知らぬうちに演じているのか。著者の文章を読みながらめぐらすのは、こんな思いだ。わたしを観ている誰かいて。誰かを観ているわたしがいて。そこには、わたしを観ているわたしもいる。知らず知らずのうちにこぼれる、小さな呟き。それはもしかしたら、わたしを演じている証拠になるかもしれない。こうして思考するわたしだって、100%自然体とは言い難いものがある。もしやわたしも?もしやあなたも?なんてことを思うのだ。

 さて、調子に乗り始めてきたので、物語に話を戻そう。物語は、両親を同時に亡くした家族の物語である。家族。一言でそうは云えども、なんとも複雑に絡まり合う家族である。何をしてでも家族を繋ぎ止めようと必死になる、血の繋がらない兄。田舎に埋もれたくない、自意識過剰な女優になりたい姉。狂気を秘めた、なんとも陰湿な行動を繰り返す妹。そして、兄の妻である孤児院育ちの、どこまでも従順な義姉。演じる役柄としては、どれも個性的である。華があるのは、やはり姉だが、世間とのズレのある思考回路を植えつけられたまま育ってしまったという、義姉も捨てがたい。そして、ホラーな姉マニアの妹というのも、なかなか面白い。と、言いつつ悲しいのだ。やはり。そこに愛がないから、だろうか。

 わたしの中で、ほろほろと鳴いたのはなぜか。わたしが、その存在意義と価値とを見出したくなったのはなぜか。泣けずに鳴いて、おろおろと居場所を探すのはなぜなのか。心が痛いのはなぜなのか。その問いを叫んでいる。それが、この物語のように思ってしまうのだ。少なくともわたしは、ほろほろと心で泣けずに鳴いた。だから、思う。わたしはわたしを観ている、と。わたしを観ているわたしが、確かに存在するのだと。自意識が過剰な部分も、内に秘めた狂気も、陰湿な感情も、鈍感なまでのふてぶてぶてしさも、何もかももれなく持ち合わせていると。ただ、その配分が違うだけで。ただ、その配列が異なるだけで。ただ、その違いだけではないのだろうか、と。だからこそ、“腑抜けども、この物語を読め!”とも思うのだ。

4062129981腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
本谷 有希子
講談社 2005-07

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コメント

こんにちはー。TBさせてもらいました。
先日はビーズアップの記事にコメントありがとうございました!
ましろさんのお気に入りになればいいな~と思います。
さてさてこの本ですが、私はさっぱりと感想をまとめてしまったのですが、ましろさんの手にかかると、深くて自分の見えなかった部分も見えてきて面白かったです。
>愛がないから悲しい

そうそう!読んでて悲しくなりますよね。
家庭的に呪われてるのかしら?なんて思いながら読んだ記憶があります。

投稿: sonatine | 2006.10.20 17:17

sonatineさん、コメント&TBありがとうございます!
あの雑誌。実は学生時代に1度買ったきりでして…
雑誌名すら忘れていました…わたしもがんばりますデス。
そして、何よりも“呪われているのかしら?”(笑)
面白いー!!!sonatineさん!
しかも、さっぱりまとめられるなんて!!!
すごいですよ。わたしはついねちねち読んでしまうから…
記事、ぜひ拝見させていただきます!

投稿: ましろ(sonatineさんへ) | 2006.10.20 20:01

ましろさん、おはようです!
今TBが成功して嬉しくて興奮気味でございます(笑)
『ペンギンの憂鬱』のほうは相変わらずエラー続き…
でもダメもとでこちらの記事にTBしたら~上手くいきました。
良かったぁ。
…とのっけからすみません。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』読みました。
ましろさんのレビュー拝見してまた違う側面を見せてもらい
ますます深みを増した感じです。
こんなにグロくて嫌悪感いっぱいなのに何故好きなんだろう。
哀しくもあり滑稽でもあり…そのどうしようもなさに惹きつけられます。
とても好みの作品でした。本谷さんの文体に惚れてしまったくらい。
他未読2冊も追いかけますー。

投稿: リサ | 2006.10.24 08:50

リサさん、コメント&TBありがとうございます!
TBに関しては、本当にご迷惑をおかけしております。
問い合わせてみたのですが、なんともそっけないお返事が…
ちょっと悲しくなりました…はい。
メンテナンスの後、どうにもこうにも、デス。

さて、腑抜けども~ですが、わたしはどうも深読みし過ぎかもしれませぬ。
どうしてこんなにも惹きつけられてしまうのか、
わたしもこの文体が好きなんでしょうか。
それとも、グロくて嫌悪感いっぱいが好きなのでしょうか。
妙なくらいのドロドロ感がなんともツボでございました。
リサさんのレビューも拝見させていただきますね。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2006.10.24 12:46

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