« 死を待つ家 | トップページ | どちらでもいい »

2006.09.27

孤独なハヤブサの物語

20060920_015_1 淡く脆い存在を確かなものにする、実存というもの。その確固たる存在感にわたしは打ちのめされた心地になった。わたしはわたしの孤独しか知らない。誰かの孤独とわたしの孤独が重なることなど、そうそうあるものではない。誰かの孤独は、誰かのもの。わたしの孤独は、わたしのもの。だから知らない。わたしは、胸の奥底にあるような実存というものを。まして、不確かなものを実存へと導くすべなど、知るはずもない。J・F・ガーゾーン著、沢木耕太郎訳による『孤独なハヤブサの物語』(新潮文庫)に対してめぐらせた思考は、そんな子ども染みた反発のような想いだった。けれど、このハヤブサの生き方に、その誇り高き迷いや旅路に、心揺さぶられることしばしば。世界の美しさを、今日という日があったことを、うんうんと頷く。そして、受け入れるしかなかった。

 物語の主人公。ハヤブサのカラ。彼は、孤高の存在である。ハヤブサという狩猟向けの性質上。孤独で在らざるを得ないのだ。生きるために食料となる獲物を探す。それは、この世界にハヤブサとして生きる上で、宿命的なものである。だが、このカラに変化の時が訪れる。獲物を見つけ、そのハトを狙い定めた矢先のことだった。カラの目に飛び込んできた光景。母親の帰りを心待ちにするヒナたちの姿。そして、必死でハヤブサからの襲撃の存在を知らせようとする、オスのハトの合図。一瞬にして、ハトを狩ることへの欲望の喪失感を体験することになるのだ。はじめて味わう、なんとも言えない悲しみ。もしかしたら、ハトたちが味わうはずだった悲しみ。それは、カラ自身の悲しみになり、罪の意識となった。その想いがどこから来るのかもわからぬままに、カラの生活は一変してゆく。ひとりきりだった生活も…。

 物語の展開はゆっくりだ。カラの主観で語りつつ、その心の奥底にある葛藤やもどかしさだけでなく、よい意味合いでの感情の変化までも細やかに伝えてくる。それは、どこか神聖な響きを持っている。森羅万象。その素晴らしさ。親密さ。生きていることに対する意味。目的。そして、ひとりきりだったカラを受け入れようとしてくれる数多くの森の住人たち(小鳥やらリスやら…)。それでも、寄り添いすぎず、付かず離れずのなんとも不思議な関係が、なんとももどかしく、ハヤブサという宿命を感じさせる。カラと彼らとの間に会話はない。物語の後半部分でやっと、少しばかり語られるだけである。言葉が違う。それでも、伝わってくる温かさ。誰かを想い。想い返されるということへの喜び。そんなものに満ちた物語が、この『孤独なハヤブサの物語』なのである。

 なんていうふうに、わかったつもりで書いてしまったけれど、本来の物語の意味合いでは、理解や解釈がまだ浅いと切実に感じている。わたしが打ちのめされた、根本というもの。その解決策が見つかるまでは、わたしはこの物語を手放しに絶賛することなどできない。だが、カラの孤独。そして、誰かの孤独。そして、わたし自身の孤独。その中にある核というものに、深く関心を抱いていることだけは確かである。“カラ”というハヤブサに学んだことを、少しでも日々の生活に感じられたら、それはなんとも幸福なことに違いない。自分自身の今後の生き方や進むべき道。それを、しばらくきちんと考える時間が必要な気がする。わたしの生き方への危機も、そうそう長くは続かない。そう信じて、もがき足掻くしかない。今のわたしにできる、最善の方法を用いて。

4102228217孤独なハヤブサの物語
J.F. ガーゾーン Joseph F. Girzone 沢木 耕太郎
新潮社 2001-11

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい。

|

« 死を待つ家 | トップページ | どちらでもいい »

58 海外作家の本(アメリカ)」カテゴリの記事

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

ましろさん

この書評を読ませてもらって、この本を読んでみようと思い、読み終えました。TBを貼らせて頂きました。
天の邪鬼の竹蔵は、著者の意見には賛同しかねますが、美しいイラストと孤高のハヤブサの思索という設定は魅力的でした。少しだけ「しあわせ」についても考えました。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2006.10.15 07:03

竹蔵さん、コメント&TBありがとうございます!
記事を読んでくださって、手にとってくださったのですか!!!
とっても嬉しいです。こんなに嬉しいことはありません。
しあわせ。ひらがなにすると、また違った印象でいいですね。
竹蔵さんの記事、早速拝見させていただきますね!

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2006.10.15 08:06

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/12068025

この記事へのトラックバック一覧です: 孤独なハヤブサの物語:

» 孤独なハヤブサの物語 [竹蔵雑記]
孤独なハヤブサの物語 (新潮文庫) J.F.ガーゾーン〔著〕 沢木 耕太郎訳 税 [続きを読む]

受信: 2006.10.15 06:59

» 孤独なハヤブサの物語 [竹蔵雑記]
孤独なハヤブサの物語 (新潮文庫) J.F.ガーゾーン〔著〕 沢木 耕太郎訳 税 [続きを読む]

受信: 2007.09.09 23:32

« 死を待つ家 | トップページ | どちらでもいい »