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2006.08.22

ほどけるとける

20060820_44011 散り散りになって砕けたわたしの想い。それが少しずつゆっくりと、1つになってゆく。揺らいで移ろいやすい心だって、ちゃんとした居場所をいつかはきっと見つけてゆくのだ。大島真寿美著『ほどけるとける』(角川書店)は、そんなゆうるりとした物語だ。半ば勢いにまかせて高校を自ら退学した主人公の美和。やりたいこともなく、なにかをしようと思う意欲があるわけでもなく。実に曖昧な自分を持て余して、ぼんやりと祖父の大和湯を手伝う日々。“それでいいのか?”美和を取り巻く人々は、皆口を合わせたように彼女にそう問う。ゲームに夢中な弟には、“RPGで知恵と勇気の使い方を学べ”なんてことまで言われてしまうほどの、不安定な身である。これは短い物語ながら、読み応えのある作品だ。そして、穏やかにやわらかに染みる。

 そう、美和は確かに不安定で危なっかしい身。“めんどくさい”と、“いやだ”をたびたび呟くほどの不平不満の中にいる。だが、彼女は自分の置かれた状況の中で、少しずつ変化を見せ始める。毎度、大和湯にやってくるフジリネンのおじさんの話は、なかなか味わい深く、美和の心をじわりじわりとつつく。歳を重ねること。ほんのいっときであろうとも、誰かとの縁は大事なものであること。また、その縁をしだいに忘れゆくこともしかたのないこと。たまにひょいと思い出してくれたら、それでいいのだと語る。なにもかもが無駄じゃないのだと。誰かとの出会いも誰かの死でも。皆、すべてのものが。そうだ、美和の選んだ生き方だって。間違ったって。遠回りしたって。いつか、何かを見出せる。そう信じればいいのだ。

 物語でわたしが一番印象的だったのは、美和が自分についての思考をめぐらす部分。高校を辞めたときの勇気。それは、本物の勇気というものだったのか、と省みるのだ。勇気と無鉄砲。その狭間で思うのだ。浅はかだった自分へ向けられた“勇気あるね”という言葉の意味を。それについて本音を隠してすり替えた言葉が、無鉄砲。勇気と無鉄砲。それはつまり、似て非なるものだったのだろう、と。また、とんでもなく気の抜けた格好で大和湯に来る常連客の漫画家である佐紀さんの存在も、フジリネンのおじさんくらいにインパクトがある。彼女の誰とも群れないところは、美和の学生時代そのもののようでもあるし、歳の差をこえて結びつく友情関係は、まさに多生の縁。そして、彼女にゆかりのある人々との結びつきも何とも愛おしい。

 人との縁というもの。その結びつき。わたしたちの日々は、それなしには生きられない。そもそも、わたしたちは人から生まれ、関わり、育ち、今に至っているのだから。思えば、例え友だちが100人いないとしても、これまでに関わった人々の数は果てしないほど多いはずだ。濃く密接な関係から、一言二言話しただけの関係。その場限りの関係(どこかの店員さんとのやり取り、知らない人と道を譲り合ったとか)なんていうものまで入れれば、もっと凄い数になるに違いない。わたしたちは知らず知らずのうちに、誰かから何らかの影響を受けて、自分の中に新たなものを次々と刻んでゆく。それを生かすも殺すも、自分次第。つまりは、生き方上手かどうか。この物語の美和のように、ゆっくりでもいい。そう、わたしたちは、それぞれのペースで進めばいいのだ。焦らなくてもいい。

4048736965ほどけるとける
大島 真寿美
角川書店 2006-07

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コメント

ましろさん、こんにちは

ご無沙汰の竹蔵です。
ちょっと見ない間に結構ドドドと記事が増えてました。「ほどけるとける」は早速図書館に予約しました。
ましろさんの読む本は結構イメージが統一されている気がしますが、どうやって選んでるんですか?良かったら教えて下さい。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2006.08.26 08:38

竹蔵さん、コメントありがとうございます!
しばらく更新が途絶えてましたが、最近復活しました。
と、言いつつ更新頻度は少ないですけれど…

本のイメージ、統一されてますか?全く意識してなかったです。
選ぶのは、最近は直感ですね。図書館をぶらぶらして、
「おっ!」と思ったのをたいてい借りています。
ただ、読み終えても載せていない作品もあるので、
記事になるのはわたし好みのものばかりに、
自然となっているのかもしれないですね。

あとは、新聞の書評!
わたしは小池昌代さん(詩人・作家)の書評が好きでして、
なぜかすべてしっくりきてしまうんですよ。

ちなみに今回の作品は、全作品制覇を目指しているお気に入りの作家さんです。

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2006.08.26 11:12

ましろさん

こんばんわ。
気に入った本だけ書評するというのも良い方法ですね。竹蔵の場合は、同じ本を2度読まないようにする防備録なので、読んだ本は必ず書いています。でも、あまり悪く書くのは気が引けるのでちょっと甘口に書いているつもりです。(たまに、頭に来ちゃうのはありますが。)
ということで、ましろさんの人となりが選択することによって出ているのだと納得しました。

私の場合は、昔アルバイトをしていた「本の雑誌」の書評に関してはチェックすることが多いです。私の購読している読売新聞の書評からは今ひとつ当たりが来ません。ミステリー系はこのミスや文春のベストを参照します。SFにもベスト系のやつがあります。一番当たりはずれが激しいのは、直木賞とか芥川賞とか野間新人賞とかでしょうか。あとは、amazon.comの「この本を買った人はこんな本も買っています」がやばすぎです。ついつい買ってしまいます。でも参考にはなります。長くなりましたが、私の選び方でした。

竹蔵

投稿: 竹蔵 | 2006.08.26 23:16

再びコメントありがとうございます!
記録として残すブログもいいと思いますよ。
わたしは、「書く」ということを目的としているので、
そこが違うのかもしれないですね。

「本の雑誌」はやはり参考になりますよね。
わたしも、ときどきチェックしていますよ。
うちは地方紙と朝日。2紙なのですが、図書館で他紙も見てます!
でも、雑誌や新聞の情報って、結構遅いのが難点ですよね。
やはり、直感かな…図書館の新刊本コーナー大好きです★

投稿: ましろ(竹蔵さんへ) | 2006.08.27 05:45

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