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2006.08.20

犬に本を読んであげたことある?

20060818_003 いわゆるおちこぼれとされる子どもたちに自己肯定感をもたらす、読書介助犬。その存在を、今西乃子著『犬に本を読んであげたことある?』(講談社)によって初めて知った。“犬に本を読み聞かせること”それが、どうして本嫌いの子どもたちに自信を与えるのか。犬好きでアニマル・セラピーに深い関心を抱いていた看護師、サンディ・マーティンによって考えられたそのR.E.A.D.プログラム(Reading Education Assistance Dog)は、アメリカやカナダで1000以上ものボランティアの飼い主と読書介助犬のチームに発展しているという。児童書のノンフィクション本ということで、さらっと読めるかと想像していたものの、まぶたと目尻が赤く腫れ上がるほど、泣かずにはいられなかったわたしだ。なんともいい本である。著者のやわらかな眼差しは、すっと心によく馴染む。

 内容は、サンディという1人の女性と、世界初の読書介助犬のオリビアとの運命的な出会い、そしてオリビアによって新たな自分を見出した子どもたち、サンディの活動を支える多くの人々についてである。はじまりは、1998年5月。サンディは、アニマル・シェルターという、野良犬や野良猫、何らかの事情で飼えなくなった動物たちを保護して、里親が見つかるまで一時的に預かり世話をする場所を訪ねていた。看護師としての自分に出来ることの限界を知った彼女は、セラピー犬となるにふさわしい犬を探していたのだ。清潔に保たれた施設内で、じっくりと犬を選んでいたサンディ。だが、思わず心を揺るがすような残酷な運命にある動物たちの現実を知り、ひどい巻き毛のオリビアを敢えて選ぶ。そして、オリビアは見事に読書介助犬へと成長するのである。

 サンディ。彼女が仕事以外のボランティア活動に積極的なのは、ありふれた単純な想いからではない。彼女は、人が陰から日向へと向かい、変わってゆくさまを見たかったのだ。たまたま、彼女が絵本好きだったこと。それはのちに、R.E.A.D.プログラムへと発展するわけだが、周囲はなかなかそれを受け入れようとはしなかった。大人だけでなく、子どもたちも。読書。それは、言葉だけではない。文字が読めなくとも、本の世界へ入り込むという想像力だけでも、立派な読書ではないのか。サンディはそうやって、正しく発音できなかったり、スペルがなかなか読めなかったりする子どもたちを導く。間違えても子どもたちを笑う者はいない。オリビアはただじっと寄り添って、嬉しそうに聴いていてくれるのだから。

 オリビアに注目されたいだけだった子どもたちは、やがてオリビアのために自分が出来ることを探し始める。そして、誰かを愛おしいと思えること。誰かのために何かをしたいと思えることを学んでゆく。求めるだけではいけないことを知ってゆくのだ。それは、サンディの意図したことを超えて、読み書きのレベルアップだけでなく、複雑な環境下にいる子どもたちの心を大きく成長させることになる。自分を無条件に受け入れてくれる存在。わたしたちはきっと、誰もがそんな存在を求めている。たった一人きりでいい。誰かが寄り添ってくれるだけで、不思議と救われる心地になるものだ。だが、その反面で身勝手なわたしたちは、そういう存在を見殺しにしている。忘れてはならない現実問題として、心に刻むべき課題はすぐ傍にあまりにもたくさんあるのだ。

4062134322犬に本を読んであげたことある?
今西 乃子 浜田 一男
講談社 2006-06-21

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コメント

はじめまして。
先日から、訪問している児童福祉施設でこのプログラム
をスタートさせました。
予想以上に、子供達が字を読めないことに驚いて
しまいましたが、子供達は犬との穏やかな時間を
楽しんでくれたようでした。
とにかくすぐに結果がでることではないので、
この活動を地道に続けていきたいと思っています。
TBさせて頂きました。

投稿: frauyamada | 2006.10.29 22:47

frauyamadaさん、コメントありがとうございます!
こちらの不具合でTBが反映されませんでしたので、
またよろしければお手数ですがTBしていただければ、と思います。
R.E.A.D.プログラムをやっていらっしゃるのですね。
まさか本当にやってらっしゃる方がいたとは…と、
正直少々驚いております。
どうかよい結果となりますように!
そして、長く続けてゆくことで、日本にも広まりますように。

投稿: ましろ(frauyamadaさんへ) | 2006.10.30 13:24

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