« あなたが想う本 | トップページ | 不思議の国のアリス »

2006.07.02

地下の国のアリス

20050721_44134 わたしにとってのアリス。それはもう、ジョン・テニエルの挿絵のアリスだけだった。ひと目見て惚れた小学生の頃のわたしは、アリスのグッズを少しずつ集め始めた。小さな田舎町にたった一軒だけある、こぢんまりしたファンシーショップ。そこに並べられたアリスグッズに満足できなかったわたしは、当時原宿の地下にあった、隠れ家的なアリスショップにまで出かけたほどのアリス狂いだった。夢見がちな田舎娘にとっては、まさにそこはアリスの聖地のようでもあった。都会の人並みの中のオアシスみたいに。海外留学中だった従姉にも、おみやげにジョン・テニエルのアリスグッズをもらうという、アリスに恵まれたわたしだった。そして、読もう読もうと思いつつ、後回しにしてきたアリスの原型の物語にやっと手が届いたのだった。

 “アリス狂いのくせに、読むのが遅くないか…”とつっこまれたなら、それまでだ。何しろ、アリスに夢中だったのは、小学生の頃の話なのだ。今となっては、小さな頃に一度は憧れて、恋い焦がれるアイドルみたいな存在が“アリス”だと云った方がしっくりくる気がする。バービーでも、リカちゃんでも、シルバニアファミリーでもなく、アリスだったのだ、と。かの、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の原型となったのが、この『地下の国のアリス』(新書館)である。大学の同僚たちと共に、学寮長の3人の姉妹たちにせがまれて、ボートに乗りながら聞かせていたお話。それが、まさにこの物語なのである。そして、ルイス・キャロルはその後、一番のお気に入りだったアリスへのクリスマスプレゼントとして、世界にたったひとつしかない手書きの挿絵入りの絵本を贈ることになるのだ。

 その世界にたったひとつだけの絵本は、さまざまな謎を秘めていた。あらすじとしたら、有名な『不思議の国のアリス』と、それほど変わるところはないものの、よりシンプルなカタチであると云うべきだろう。童話らしい童話。そう云うべきところのグロテスクさも持ち合わせつつ、出版した作品と手書きの作品との違いに纏わる謎。アリスが地下へと続く穴の奥へ向かうところから、忙しないウサギを追いながらも見失って、自分をも見失うさま。それは、大人となって初めてアリスを読む者にとっても、ぐいぐいとその世界に引き込まれること間違いなしの展開だ。残念ながら、ジョン・テニエルの描くアリスにはほんの少ししかふれられていないものの、この『地下の国のアリス』に隠された謎を知れば知るほど、アリスに対しての興味がわくだろうと思う。きっと。必ず。

 わたしが思うに、この『地下の国のアリス』は、アリス好き向け。物語そのものよりも、ルイス・キャロルがどうやって『不思議の国のアリス』にまで至ったのか、という部分に出版社側の力が入っているのでは…と感じるゆえ。この作品を今こそ世に出そうと考えた人々の、アリスへの思い入れの深さ。ルイス・キャロルという人への熱き思い。それらを思わずにはいられないのだ。また、読者が何よりも嬉しいのは、ルイス・キャロルがアリスのモデルとなった、本物のいとしいアリスへと本を贈ったときの気持ちをほんのりと知れる、なんとも心憎いしかけがひとつ、あるからだ。嗚呼、この作品、大人になってもアリスに心惹かれる人にはたまらない1冊に違いない。愛ですよ、愛。物語に、この手の中にある1冊にも、それを思うのだから。

4403030335地下の国のアリス
ルイス キャロル Lewis Carroll 安井 泉
新書館 2005-02

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログへいらっしゃい。

|

« あなたが想う本 | トップページ | 不思議の国のアリス »

59 海外作家の本(イギリス)」カテゴリの記事

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/10763172

この記事へのトラックバック一覧です: 地下の国のアリス:

« あなたが想う本 | トップページ | 不思議の国のアリス »