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2006.06.13

銃とチョコレート

20060605_44017 ミステリが苦手と云いつつも、つい気になってしまう“かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド”のシリーズ。乙一著『銃とチョコレート』(講談社)を読み耽ってみた、わたし。数冊積読のまま、もう今さら読まなくたっていいか…なんて思っていた、乙一作品。はじめての味わいのきっかけは、平田秀一さんの挿絵に惹きつけられたゆえ。繊細なタッチに漂う妖しさ。そのダークで不気味な世界は、物語を夢中にさせるに充分で、たまらなく素敵だ。もうほんとうに、ため息がこぼれてしまうような挿絵。あくまでもわたし自身の主観なので、好みはそれぞれであると思うのだけれど、わたしはこういう世界がかなり好きらしい。と、今頃になって気づく。

 さて、この物語。子どもたちが心奪われ注目している、怪盗ゴディバに関する手がかりを追うもの。そこには、怪盗ゴディバの捜査に加わっている、カリスマ的な探偵であるロイズの存在がある。移民の血をひくせいで、貧しい生活を強いられている少年リンツは、亡き父親の形見である聖書から、怪盗ゴディバの手がかりを見つける。探偵ロイズへの憧れと尊敬。絶対的な正しさを信じたリンツは、怪盗の情報への懸賞金の記事を読み、探偵ロイズに手紙を書くのである。その後の展開は、人間のどろっとした部分、即ち醜い部分を読むことになるのだけれど、なんだか妙に心地よい。するりするりと認めてしまった。悪巧みな大人と、切実な子どもとの対比も考え抜かれている。

 これはやはりミステリであるのだから、メインとなるのは怪盗ゴディバの正体やその盗品の数々を取り戻すことにあるのかもしれない。けれど、この作品に漂うのは一番に“血筋”であるような気がする。主人公の少年リンツの暮らし。それは、多くの人々に虐げられて、それでも帰る場所がないゆえに耐え忍ぶものであるから。移民という存在について、これまで、あまりにも考えることがなかった自分自身を、わたしは少しばかり恥じ入ってしまう。なおかつ、この作品には没落した貴族の血を受け継いだドゥバイヨルという異端児も登場する。彼は、リンツと共に怪盗ゴディバの謎に迫るわけだが、彼の心の奥底にあるプライドと、それゆえの衝動が、なんとももどかしく悔しく感じられる。

 また、先に述べた“人間のどろっとした部分”。これはもう、ミステリーランドの共通のテーマなのか…?なんて思うのだけれど、この作品には信頼を寄せる人と人との関係性がほとんど描かれていない(いくつかはあるのだけれど)。結末まで読んでしまうと、それがひどく悲しい。誰もが、自分のことばかりにかまける。それは、“自分ありき”であり“わたしありき”なのだから、仕方のない成り行きというものなのだろう。人は皆、裏切る。まるごとすべてを信用してはならない。今を生きる少年少女たちが、これを読んでそんな想いを色濃くしてしまうとしたら、大人になりきれないままのわたしすらも、見渡す景色すべてが滲んでしまうだろう。それでも希望がひそやかにも覗けたとしたら、きっと皆、生きてゆける。そう思いたい。

406270580X銃とチョコレート (ミステリーランド)
乙一
講談社 2006-05-31

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コメント

ましろさん、こんにちは。

私も心から信頼し、心の拠り所にしていた存在から立て続けに裏切られていく主人公が可哀相で気の毒で、見てられなかったです。
これを読んで、もし子供が裏切られるのが怖くて、人を信頼できなくなったらどうしようという想いと、
そんなことはないという気持ちとが、思わず入り乱れちゃいました。
心が無垢なうちに読むと、トラウマ小説確実ですね、きっと(苦笑)。

ただ、この作品のラストには感動しました。
移民の血筋のせいで、虐げられた生活を強いられているという主人公の設定が、すごく生きているようで。

そうそう、ドゥバイヨルもチョコのメーカーの名前なんですね。
まったく知りませんでした(汗)。

投稿: 七生子 | 2006.06.15 12:31

七生子さん、こんにちは。
コメント&TBありがとうございます!

わたしもまだまだ無垢だから、トラウマが心配…(笑)
ほんと、子どもはどうなんでしょうね。
甥っ子にでもプレゼントしてみたら、親戚一同に叱られるやもしれない。
小さな頃に読んだミステリは、シャーロックホームズにルパン。
そこにはドラマはあれど、心が掻き乱されることなどなかったような、
そんな気がしてしまうんです。
ラストは、うんうん。ほんとうによかったですよね。

ドゥバイヨルもチョコのメーカーなんですか?
おー。いいコトを知りましたです。
チョコレートだらけだったんですね。この物語!

投稿: ましろ(七生子さんへ) | 2006.06.15 14:15

ましろさん、おはようございますー。
ちょっと遅くなってしまってごめんなさい。


ましろさんが読まれたミステリーランド作品は、
これで3冊目ですか?
なかなかブラックなセレクトしてますねー。(笑)
私の中では、これと「神様ゲーム」がブラック双璧なんですよ。
あ、でも「闇の中の赤い馬」は3番目ではないです。(笑)

そうか、無垢なうちに読むとトラウマ必至なんですね。
子供の頃この作品を読んでたとしても、能天気な私はきっと
「いつか身近な人に裏切られてしまうかも」なんて露ほど思わず
リンツ少年の苦悩を自分に重ねあわせることなどせずに
楽しんでしまったのではないかと思われます…
今はもちろんなんですが、
昔も全然無垢ではなかったということでしょうか…(がっくり)

子供の頃の私が心を掻き乱されたといえば、江戸川乱歩作品ですが
それにしても、結局トラウマにはならなかったんですよねえ。
このなかなか物事に動じない図太さが嬉しくありません…
ましろさんの繊細さが眩しいです。

投稿: 四季 | 2006.06.28 05:15

四季さん、コメント&TBありがとうございますー!
お待ちしてましたよ(笑)

ほうほう。これ、ブラックなセレクトだったんですか。
表紙に“猫発見”という気ままさで手にとっていました。
実は、ただの猫狂いセレクトだったりして…。
わたしにはもう、繊細な眩しさはないような気がします。

ちなみに3番目にブラックなのって、何ですか?
知りたい。とてつもなく知りたい…切実に知りたい…←しつこいですね。

江戸川乱歩は、少し手を付けましたが、
エロが結構トラウマだったような…
見てはイケナイもの。それを見つけてしまった感じでした。
椅子に座るのが怖くなったり…
未だに幼き頃と変わらないのは、影響されやすいところです。きっと。

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2006.06.28 15:45

ましろさん、おはようございます。
3番目、そんなに知りたいですか?(笑)
思わずじらしてしまいそうになったんですけど(おぃ)、ええと、3番目は殊能将之さんの「子どもの王様」です。これは他のブラック2作と違って、あんまりオススメしたくない作品なのですが… というか、私にとっては読後感が悪すぎて、むしろこっちの方が子供に読ませたくないって思っちゃった作品なんです。
世間一般的には、「神様ゲーム」の方が、そう言われることが多いと思うんですけど。(笑)

でも、改めてこのミステリーランドのラインナップを見てみると、ブラックな作品って結構多いかも…。シリーズ全部を読んでるわけじゃないんですけどねー。

投稿: 四季 | 2006.06.29 06:24

四季さん、おはようございます!
ええもう、すっごく知りたかったです。
教えてくださって、ありがとうございますー!!!
読後感の悪さって、なんだか妙にそそられてしまいまして。
我が侭で駄々っ子みたいでスミマセンです(笑)

「子どもの王様」は、絵がMAYA MAXXさんということで、チェックしてたんですよ。
おおーこれはやはりいいセレクトだったのか…不思議な縁すら感じてしまってます。
今日、図書館へ出かけるので早速探してきます。
楽しみです。とても。
ありがとうございました!

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2006.06.29 07:21

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