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2006.06.23

エゴン・シーレ 魂の裸像

Photo98031 腕らしい腕。わたしはそこに理想を見つけた気がした。生きている腕。そのゆるやかな線の二の腕に、一瞬にして魅せられたのだ。それを形づくる細かな細胞ひとつひとつの生と性に、抵抗しつつも惹かれてしまった。いや、引きずられたと云うべきだろうか。そして、まさにそういうものを、エゴン・シーレ画・文、黒井千次編『エゴン・シーレ 魂の裸像』(二玄社)に見た心地になったのだった。タイトルにあるように、やはり、この本の中に収録されている作品はほとんどが裸像だ。しかもその多くが、シーレの自画像である。また、シーレの放った言葉たちの煌めきと共に、その世界へと流れるままにするすると。けれど、ぐいっぐいと強くも浸れるつくりになっている1冊である。

 エゴン・シーレ。彼は28年という、短くも濃い生を過ごした人だ。画から漂うエネルギー。それはまさに、彼そのものだったのではないかと思わせる。生涯自画像を描き続けた彼だからこそ、の。それを自己陶酔だとか、自己凝視だとか、自己執着だとか、そんな言葉で片づけることのできるもの以上の、マグマのようにぐつぐつとうねり、じりじりと時を経て、はね上がるもの。わたしには1つ1つの裸像をじっと見つめながらそう思うのだった。そして、やはり気がつけばわたしは、腕を見ていた。生きた腕を。腕としてあるべき腕の。腕としての理想型を。動きは身体を作る。見えなかった筋肉を見せる。シーレの描いた腕の線というのは、それゆえのものだ。シーレは、腕というもののあるべき姿を知っていた。そういう気がしてならないほど、魅惑的な腕がいっぱいある。

 シーレの言葉に“あらゆるものは生きながら死んでいる”というものがある。まさにいま、死んだかのような少女を抱きしめる男を描いた「死と少女」に添えられた言葉だ。人は皆、老いに向かっている。誰もが紛れもなく死へ向かっているのだ。けれど、常にそれを意識していられるのは、人として未熟か成熟し過ぎたか。その両極端にいる人々のような気がする。また、こんなことも云っている。“もしもぼくが自分を本当に見ようとするのなら、自分自身を直視せねばならぬだろう。己が何を求めいているか、何が自身の中で起こっているかを知るだけでなく、どれほど真に視る能力をぼくが備えているかを自ら知ることになるだろう”と。そして、そこにもまた、思わずシーレ自身の悲しみを見つけてしまう。シーレ自身でない悲しみに暮れる女のまなざしの中にさえ。

 そのシーレの悲しみは何であったのか。いくつもいくつもそれを見つけては、はっとしてため息しかつけないわたしがいることにも気づく。画に添えられた言葉は、その時期を作品と必ずしも一緒にしてはいないのだが、ずんずんと迫り来るのだ。中でも「死せる母」という画は、ずしんと来る。生と死。それがあまりにも、その境界を感じさせるからである。他にだって、たくさんたくさん迫り来る画はある。優れた画と心惹かれる画とは、やはり異なるものだ。美しさ。深かった愛。深まってゆく愛。本能としての性。本能を超えた性。そして、生と死。シーレが描いたいくつもの作品は、いつだって心震わす。心震えるゆえに、その世界を堪能したくなる。未知なる部分を探りたくなる。それが例えナルシスティック的倒錯でも、衝動を掻き立てる一人だというのに変わりない。

4544020778エゴン・シーレ 魂の裸像 (ART&WORdS)
黒井 千次 Egon Schiele
二玄社 1999-01

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