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2006.05.02

リンボウ先生が読む 漱石「夢十夜」

20050501_016 耳で読む。それはなかなか新鮮で。斬新で。ぞくぞくする音楽として、文学を感じるもの。厳密に言うならば、“耳で読む”ことなどできるはずはないのだけれど、私は敢えてそう言いたい。林望著『リンボウ先生が読む 漱石「夢十夜」』(ぴあ)は、まさに“耳で読む”作品なのだから。夏目漱石の「夢十夜」の世界を余すところなく伝える朗読と、音楽。そして、漱石という人。歴史的背景。夢という言葉に隠された意味合いなどについて綴られたこの作品は、読み手をするりと誘って浸らせる。じわりじわりと染み込ませる作品である。心地よくやわらかなリンボウ先生の声に、なんだかすっかり酔いしれて、ここ数日毎晩耳に馴染ませている私。ただし、いい夢はみられない…。

 夏目漱石の「夢十夜」。私はこの作品を、何度読んだことだろう。10もの夢の話は不気味で不条理で、読むたびに恐怖を抱かせるものばかりだ。或いは、悲しみを。でも、私の思いによく馴染む。妙にしっくりくるのだ。だから、ときどき無性に欲しくなって、手に入れたつもりになって、ほっとする。深く息をつき、安堵する。中でも、胸を掻きむしりたくなるような「第二夜」と「第十夜」がいい。苛立ち。焦り。行き場のなさ。空虚。そういうものを感じさせて、一緒になって苦しむのがいいのだ。あまりに身勝手な共鳴。それは私の単なる我が侭である。けれど、寄り添いたくなってしまうのだ。ときどき。あくまでも、ときどき。私自身の終わりのない悩みが、ゆるやかなときに。

 さて、リンボウ先生の「夢十夜」。その朗読には、音楽が流れている。ホルストだったり、バッハだったり、サティだったり、ヤナーチェクだったり、エルガーだったり、バードだったり、ヒューバート・パリーだったり。いずれもクラシックで、明治に書かれた物語と意外なくらいに馴染んで、さらにその世界をより魅力的にしている。何かをひどく掻き立てる。響かせる。感じさせる。すべての五感を刺激して、読み手をその世界に引き込む。そんな見事なコラボレーションである。活字を追いながら聞くもよし。声と音楽に集中するもよし。目を閉じれば、ふっと鮮やかに浮かぶものがある。これまでの「夢十夜」と新たな「夢十夜」とが、少しずつ溶けて、絡み合う。

 私が特に気に入ったのは、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲だった。「夢十夜」に対するイメージを、まさに音にしていたからである。細い弦が振動するさま。弓がせわしなく移動するさま。私の頭の中では、そんな光景がこびりついてしまった。そして、コントロールの効かなくなった自分自身に戸惑って、あっという間に真っ白になる。ほんとうにあっという間に。単体として聞いたのなら、決して心地よい類の音楽ではないのだけれど、「夢十夜」の世界として捉えたのなら、すごく馴染む。そういう音楽である。耳で読む。そのためにあるような音楽でもある。私はまた、今夜もリンボウ先生の朗読で夢をみるだろう。いい夢はもう、期待しないと決めた。

4835616243リンボウ先生が読む 漱石「夢十夜」
林 望
ぴあ 2006-03-01

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コメント

こんなのもあるんですね。

言葉と音楽の相乗効果で
イメージも膨らむんでしょうね。

なかなか面白い試みかも。

投稿: 猫目堂 | 2006.05.02 23:43

猫目堂さん、コメントありがとうございます!
ホント、これは面白いですよ~。オススメです。
言葉と音楽とは別個のもの。そんなふうに思っていた私には、
目からウロコの作品だったのデシタ。

でも、悪夢を見ちゃうかもしれない…(笑)

投稿: ましろ(猫目堂さんへ) | 2006.05.03 08:41

「こころ」はニガテだったのですが、『夢十夜』はなんだか好きなほうです。

リンボウさんの声って、低めでいいですよね。NHKのラジオ講座で、クリアな英語に聞きほれました。あの声で読む『夢十夜』聞いてみたいです。
トラバさせてくださいね。

投稿: sayano | 2006.05.03 21:53

sayanoさん、コメント&TBありがとうございます!
わたしも「こころ」は苦手だったんです。
教科書に載っていたからでしょうか…かなり抵抗してみたりして。
漱石は、去年「文鳥」を読んでから“よさ”をじわじわ感じるようになりました。
「夢十夜」はリンボウ先生の声だとムード満点!お好きな声なら、ぜひ!
ラジオ、チェックせねば~。

投稿: ましろ(sayanoさんへ) | 2006.05.03 22:21

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