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2006.05.10

ねこのせんちょう

20050807_44123 どっかりした猫というのが、わたしは好きだ。歳を重ねたぶんだけしぶとくなって、たるんだ腹を揺らしてのそのそと歩く。人を格下と見なしているかのような目をして、プイと横を向く。神経質なくらいに触った先から毛繕いをして、ちょっと曲がった尾を不機嫌そうに動かしていたら、わたしはため息すらもらすだろう。マドレーヌ・フロイド作、木坂涼訳『ねこのせんちょう』(セーラー出版)は、わたしの好きなそういう猫が主役である。濃淡のコントラストが絶妙で、太い線と細い線との使い分けがいとおしくなる水彩画の猫。そのいとおしさはきっと、猫への愛としなやかなまなざしとを作者が持っているからに違いない。ここに描かれた猫は、わたしの好きな猫。あなたの好きな猫である。

 猫の“せんちょう”は、川の近くにある家で暮らしている。眠ること、食べること。それから、毛繕いを念入りにすることが好きな猫。せんちょうは、さまざまな場所で眠る。人間のベッド。本やノートの上。階段のてっぺん。物置小屋の上。青いお皿に入れられたツナやかりかりビスケットに満足せずに、人間の夕飯の残りをもらうこともある。毛繕いは、耳の後ろ。手足。背中。しっぽの先までも、くまなく。せんちょうの優雅なしぐさを切り取った絵は、猫好きにはたまらない。そして物語は、せんちょうのその他の好きなことをロマンチックに描いてゆく。せんちょう、あなたは猫の中の猫。そう言いたくなる、わたし。でも、一番はうちのGだと思っている猫バカである。

 猫派にしても犬派にしても、無条件に愛らしい時期というのがある。それは、動物だけでなく人間にも言えることだろう。小さいもの。頼りないもの。純真無垢なもの。子猫だとか子犬だとか、赤ん坊だとか。わたしたちはたいてい、そういうものを可愛らしいとか、抱きしめたいとか、いとおしいと思う。わたしがいくら、どっかりしたふてぶてしい猫が好きだと言っても、子猫が目の前にいたならば、そちらをカワイイカワイイと声のトーンを少し上げて繰り返し唱え始めるのだ。だからわたしは、子猫と猫は別の生き物だと認識しているところがある。人間でいうところの、お父さん側から見たところの、妻と娘みたいなものだと位置づけてみたりして。

 話を戻そう。猫の話である。“せんちょう”のどっかりは、わたしの傍にいる愛猫たちにも言えることだ。10歳を越えた猫たちは、去勢手術や避妊手術をしたとて、貫禄というものが出てくる。昼間の目つきは鋭いし、存在を主張するように耳に触る声で鳴く。猫特有の身体能力にも翳りが見え、人間の中年太りよろしく立派な腹になってくる。確かに歳を重ねて、経験を積んで。そうやって人よりも速く駆け抜けてしまう一生を思うと、傍にいるぬくい生き物がいとおしくてたまらなくなるのだ。そして、そうっと撫でるわたしの手にごろごろ喉を鳴らしつつも、忙しなく毛繕いを始めたとて、わたしの気持ちは続いてゆくのだ。それが一方通行の思いだとしても。

4883301575ねこのせんちょう
Madeleine Floyd 木坂 涼
セーラー出版 2006-04

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コメント

表紙だけではありますが・・・なんて魅力的な猫!
目が、なんともいえませんね。
猫の絵本は、かなりチェックしておりますが、これは知りませんでした。
それにしても・・・絵本で主役をはっているのは、犬より猫の方が多いと思いませんか?
人間っぽいんですよね、猫って。
写真がGさんですか?
それにしても、こんな瞬間にシャッターを合わせられるなんて、すごい!
私は、実家の猫ちゃんたちの写真を、上手くとれたことがありません(涙)

投稿: こもも | 2006.05.14 22:26

こももさん、コメントありがとうございます!
これはずっごくいい猫です(笑)
存在感といい、しぐさといい、色合いといい。
まさに、魅せる絵です。

そうですね。確かに猫の絵本って多いかも知れない。
犬の絵本もいいけれど(特に「アンジュール」)、
猫だとつい、手を出している気がします。完全なる猫派です。

写真は、そう、Gなんです!
このショットは、偶然。撮るのはなかなか難しいですね…

投稿: ましろ(こももさんへ) | 2006.05.15 14:21

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