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2006.04.06

ロンパーちゃんとふうせん

20050324_035 無条件の可愛らしさというのは、期間限定だからこそ心奪われるもの。借り出してきてから何度も繰り返しページをめくるうちに、酒井駒子著『ロンパーちゃんとふうせん』(白水社)に対して、ふっとそんな言葉を思っていた。けれど、私にとってはそれが、小さな子どもへの切なる思いには通じてはいない。絵本の中の子どもはたまらなく愛おしくても、実際に生身の子どもを目の前にしたら、なかなかまっすぐな気持ちを抱けないのだ。いやしくもつぶさに欠点を見つけて、“ほら、やっぱり”なんて思ったりするのだ。だからこそ、絵本の中の子どもは私に愛情を抱かせる。都合のいい理想を積み重ねるだけ重ねて、満足げに頷くことができる。いつのまにやら、ひねくれちゃったわ。私。そう思う。

 さて、絵本の中のロンパーちゃん。それはもう、完全無敵の可愛らしさに満ちている。ぷっくりとした頬、丸み帯びた肢体、その切実なるまなざし、ひとつひとつのしぐさに至るまで、可愛くて可愛くてたまらないのだ。ロンパーちゃんの傍に寄り添う母親からは、子どもへの愛が溢れている。この人は、まぎれもなくロンパーちゃんの母親なのだ、と思わせる佇まいである。そして、物語はロンパーちゃんに焦点を合わせて進んでゆく。あたたかに、細やかに、やわらかに進む。ロンパーちゃんにとっての大きな世界が、小さく切り取られて描かれてゆく。読み手である私は、そっと見守るようにその世界を覗き見る。

 物語は、ロンパーちゃんが街で風船をもらう場面から始まる。風船が飛んでしまわぬように、風船はロンパーちゃんの小さな指にくくられる。その結び目すら、愛おしくなるような絵で描かれる。おうちに戻ったロンパーちゃんは、思う存分風船と遊ぶ。ふわふわとゆらゆらと生き物のように漂う風船は、からかうように小さなロンパーちゃんの届かぬ場所へと向かってしまう。そこには、母親のひと工夫が役立つ。絵になる繊細な知恵。書きたいけれど書けますまいと思わせる。私はきっと、この知恵をどこかで使う。いや、絶対に使ってみせる。ロンパーちゃんは、外の世界で風船と戯れることができる。この知恵を用いれば。素敵。たまらなく素敵だ。

 ロンパーちゃんと風船。その関係もまた、言ってみれば期間限定のもの。だからこそ愛おしい。だからこそ心惹かれる(私の場合は)。夢のような時間は、しだいにしぼんでゆく運命にあるから…なんていう物語には描かれていない、描いて欲しくない悲しい結末は、はっとするような色に霞みゆく。それはそれは美しい、鮮やかな結末である。この場面は、ずっとずっと私の中に刻まれるだろう。ひねくれちゃった私の心に、ほんのりとやさしく、何かが灯ったようにも感じられる。ロンパーちゃん、あなたはやはり無条件に可愛い。たまらなく可愛い。著者の子どもへの思いを、私も少しだけ抱けた気がする。錯覚ではなくて、確かに触れた、気がするのだ。

4592761006ロンパーちゃんとふうせん
酒井 駒子
白泉社 2003-03

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