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2006.04.11

そろそろくる

20050409_003 次の波が来るまでに、私はその激しさを忘れてしまう。何度も何度も繰り返し押し寄せる波に、あんなにもじっと耐えたというのに。私はちっとも学習できずにいる。一生のうちに500回もあるというソレに対して、嫌悪以外のものを感じられないことは、心貧しいだろうか。不幸だろうか。PMS(Premenstrual Syndrome 月経前症候群)を題材として描かれた、中島たい子著『そろそろくる』(集英社)を読みながら、ついそんな思いをめぐらせていた。個人差はあれど、なんとも言い難いあの疼きと眩暈などの諸症状はとてつもなく煩わしい。それらが何らかの目的や手段としての付属でないならば、絡みつく思いはさらに高まる。無闇に苦しいだけの厄介なモノ。無駄にやってきては繰り返される、動物的なモノ。女という生き物に付きまとう嫌悪のかたまりである、と。

 物語は、主人公がゆで玉子と格闘しながら、いわれのないイライラを隠せずに自分自身を責めている場面からはじまる。ゆで玉子すら、満足にむけない女だと。ひとりきりだと。やたらに腹が立って、なんだか妙に悲しくて、嗚咽しながら泣きじゃくって、それなのに無性に何かを頬張りたくて、いつのまにか深い眠りに落ちてしまう。おまけにお腹まわりは、ぽっこりとちょっとした妊娠状態みたいになったりもして…(そこまでは書かれていないけれど)PMSとまではいかないにしても、こういうことにうんうん頷く女性は多いのではないかと思う。過剰に頷いてしまうほどの人がいれば、全く縁遠い人もいることに、不公平さを思いつつ、私自身もつらいゆえ、主人公の不安定さに共鳴してしまった。

 30代。独身女性。仕事、まあそこそこに。夢見ていたこと、あったかな。恋愛、なんとなく離れがち。家族、もう私には期待していない気がする。友だち、少し遠慮しているんじゃないだろうか…主人公はそんな人。友だちからPMSのことを教えられ、自分自身の抱えるモヤモヤを意識しはじめてゆく、という展開。もちろん、PMSだけのことではない。絵を描くことを仕事としている主人公は、本当に描きたいもの。自分らしい絵というもの。誰かと寄り添うということなどなど、ゆっくりだけれど彼女らしく、考え、悩み、進んでいく。ときには、立ち止まりながら。後ろへ戻りながら。彼女が悩めば悩むほど、迷いあぐねれば迷いあぐねるほど、リアルな人物像が出来上がってゆくような気がした。

 この物語の中で印象的だったのは、姪っ子の寝顔を見ながら“大人になるほど色々なことができるようになるけれど、それを上手くできる人になれるかは、また別だ。リンゴの皮がむけるようになると同時に、リンゴの皮をむくのがヘタな人にもなってしまう”という言葉。何事においてもそうであると認め出すと、キリのないところに迷い込んでしまうような言葉だ。大きくなんてならないほうがいいことは、世の中にたくさん溢れている。だけれど、小さいままではいられない。月日は勝手に過ぎてしまうし、そういう積み重ねで人は生きてゆくのだろう。学んでも学びきれないことを、誰もが抱えながら。もうすぐ押し寄せる波に、ほんの少し怯えながら。きっと、あなたもね。私もね。

4087747999そろそろくる
中島 たい子
集英社 2006-03

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37 中島たい子の本」カテゴリの記事

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コメント

ましろさん、こんにちは。
『そろそろくる』、『すばる』掲載時に読みました。中島たい子という作家はまだ新人とはいえ、いまいちばん元気で創作欲旺盛な人ではないかと思います。デビュー作の『漢方小説』といい、「食べる」ことに執着しているのがユニークです(当人はごくごくスリムなのに)。この作品のテーマはPMS。アングルが少し変わったなと思いました。主人公の不完全さはいずれの作品にも共通していますが。その不完全さが持ち味ですね。

投稿: bananafish | 2006.04.12 10:08

bananafishさん、コメントありがとうございます!
中島たい子さんの描く物語は、とてもユニークな視点ですよね。『漢方小説』のときにも感じたのですが、はじまりからぐっと惹きつけるなぁと思って読みました。主人公の危うさが、日常との続きのような、身近な部分の延長線上にあるような。不完全なのがいい心地で。今後も注目していきたい作家さんです。もう少し私も、食に注目すればよかったかしら…

投稿: ましろ(bananafishさんへ) | 2006.04.12 15:10

大変参考になりました。
男の僕だと共感できませんかね。
ところで最初にかわいい猫写真でひっかかりました。「ゆるゆる猫の空想」というブログを書いてます。一度覗いてみてください。

投稿: chantune | 2006.04.12 16:08

chantuneさん、コメントありがとうございます!
男の方でも共感できるポイントは、いっぱいあると思いますよ。
しっくりくるとなかなかツボな物語です。
ブログ、覗かせていただきますね~。

投稿: ましろ(chantuneさんへ) | 2006.04.12 17:14

ましろさん、こんにちは。Sachiですー。

先日、わたしもこの本を読みました!(*^▽^*)
中島さん、やっぱり好きだなぁ、って思いましたわ。

で、早速TBを!! ……と思ったら、
なぜかこの記事だけTBのリンクがなくてできませんね。
なぜでしょう??

投稿: Sachi | 2006.04.17 15:26

Sachiさん、コメントありがとうございます!
いいですよね~、中島さん♪
TBできなくてごめんなさい。
わたしの気まぐれで、TBできないようにしてあるんです。。。
ときどき無性にTBが嫌になるもので。
そろそろきちゃうから、なのかもしれないです。

Sachiさんの記事、読みにいきますね。

投稿: ましろ(Sachiさんへ) | 2006.04.17 18:54

ましろさん☆こんばんは

わたしも女なのですが、PMSってものがよく分からないんです。
多少お腹が張るとか、腰が痛いとかってのはあるけど、大して辛いとは思ったことがないんですよね。
中学生の時の保健体育の先生に「痛いからってじっとしてたらもっと痛くなるんだから、なるべく運動しなさい」って教わったのが良かったのかもしれません。(^^ゞ
「O脚が原因」という説もあるので、整体などもいいのかも?

こういうテーマで書くという目の付け所がいいなぁと思う作品でした。

投稿: Roko | 2006.04.19 23:03

Rokoさん、コメントありがとうございます!

著者の目の付け所、よいですよね。
辛くないのにこしたことはないって思っちゃうんですが、
やっぱりそれなりの努力とか心がけとか、
そういうものが必要なのかもしれないですね。
運動かぁ…運動かぁ…そうかぁ…そうなんだぁ…
↑かなり消極的。

投稿: ましろ(Rokoさんへ) | 2006.04.20 14:16

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