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2006.03.02

20051212_50 親密な時間を過ごす以上のものがある。ときには煩わしい絆。それも、血の繋がりというもの。強い葛藤と苛立ち乗り越えたそれは、穏やかな今になってみれば、何よりも確かなものに思えてくる。あれ程までの否定は何だったのか。そんな過去の記憶は、どんどん不確かなものになってゆくのだ。父親についての短い物語を集めた、赤木かん子・編『Little Selections あなたのための小さな物語 10 父』(ポプラ社)には、切っても切れない過去の記憶を刺激する、さまざまな父親像が垣間見られる。収録作品は、三浦哲郎の「拳銃」、レオン・フラピエの「おくさん」、エドモンド・デ=アミーチスの「フィレンツェの少年筆耕」、大島弓子の「毎日が夏休み」、ポール・ギャリコの「ああ、金色のグローブよ」。やはりこのシリーズは、絶妙なセレクトだと思う。

 まずは、三浦哲郎の「拳銃」。物語は、父親の遺した未使用の拳銃に思い悩む家族の話。母親はいくつものことが折り重なって、体も心も疲れ切っていて、著者を彷彿させる息子に拳銃のことを頼む。“漬物石に悩まされている”という表現が印象的な作品で、物騒で厄介な拳銃を通じて、父親の存在が鮮やかになり、その抱えていた思いを知る、という展開になっている。ふと、精神的な意味での“父の支え”というものを考えてみたのだけれど、何も思いつかなかった私。情けない。次のフラピエの「おくさん」は、とびきりの愛妻家か恐妻家なのだと周囲に思われていた一人の男の、本当の事情が明らかになってゆく話。父として、男として、一人の人間として、幼子なのは誰でしょう…あたたかだけれど、自分を省みる必要を迫られる物語である。

 続いてのアミーチスの「フィレンツェの少年筆耕」は、父を思いやる少年の気持ちが痛くも切ない物語。お互いがお互いを思いやるあまりの、すれ違い行き違いが描かれている。やはり「母を訪ねて三千里」の著者だなぁと唸らせる。でも、同時に、こういう愛情というのは、もう物語にしかないかもしれないとも思う。それとも、日本人の愛情表現が不器用なだけなのか。次の大島弓子の「毎日が夏休み」は、大、大、大好きな作品。これまでに何度読み返したことか。微妙な関係だった出社拒否の義父と不登校の少女が、一緒に新たな仕事(なんでも屋)を始める、というもの。プライドの高い母親や義父の昔の恋人、交流のあった同僚などとの絡みは、人間の内面を鋭く切り取っていて、はっとさせられる。現実は厳しい。けれど、光りは確実に射すことを知る物語。ちなみに、これは漫画。

 最後は、ポール・ギャリコの「ああ、金色のグローブよ」。これには驚いた。私の中では、ファンタジー色の強い人だったので、編者である赤木さんの“作風はセンチメンタルかつマッチョマン”という紹介にぎょっとなってしまった。この物語は、少年院にいたことのある青年が、ボクシングの試合を通じて自分を見出すもの。青年が囚われている複雑な思いが、ゆっくりと解かれていく過程が丁寧に描かれている。もちろん、ここにも父親というのが大きな役割を果たしているのだけれど、血の繋がりというものが言葉の奥の奥を、心の内をも繋ぐものであるのだと伝えてくる。実際に起こった出来事をもとにしているせいか、物語を超えた魅力があるようにも感じられる。タフな男は格好いい。肉体的にも精神的にも強くありたい、と思う。女だってね。

4591071472父 (Little Selectionsあなたのための小さな物語)
赤木 かん子
ポプラ社 2002-05

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コメント

 「宮沢賢治の風 セロ弾きのゴーシュ お父さん」
という記事にTBさせてもらいました。

 まちがって「ちなつのハワイ」に同じTBとコメントつけちゃいました。
 宮沢賢治がハワイの話にTBつけるのもちょっとねえ。

 ドジです、すいません。

 「ちなつのハワイ」のほうのTBとコメントは消してください。

 こんなわたしですが、これからもよろしく!

投稿: 方城渉 | 2006.03.02 22:12

方城渉さん、はじめまして。コメント&TBありがとうございます!
いろいろ読んでくださったようで、嬉しく思っております。
ブログ拝見させていただきました。

で、申し訳ないんですが、私もドジでして。
はやまりました。すみません。
どういう意図でTBされたのか理解できずに困惑して、
「ちなつのハワイ」のTBと一緒に、こちらへのTBも消してしまったんです。
ごめんなさい。もし宜しければ、また。と思っております。
失礼致しました。

投稿: ましろ(方城渉さんへ) | 2006.03.02 22:50

 いや、確かに、よりによってハワイですからねえ。

 自分もそんなのきたら「アホか」と思います。

 かわゆいニャンコたちによろしく!

 ほんとにかわゆいですね。

投稿: 方城渉 | 2006.03.02 23:01

コメント&TB、再びありがとうございます!

ニャンコたちに伝えておきますね。
もう結構な高齢なのですが、いつもいい表情をしてくれてます。
追い回してばかりで。感謝です。

投稿: ましろ(方城渉さんへ) | 2006.03.03 21:54

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月齢 15.5 ■父さん、許して  今日は宮沢賢治の セロ弾きのゴーシュ。  下手なセロ(チェロ)弾きのゴーシュが動物たちの毎夜ののレッスンで、みごとなセロ弾きに成長する物語だ。  ゴーシュという名前は、フランス語で「左の」を意味するゴーシュからきてい....... [続きを読む]

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