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2006.03.19

金曜日の砂糖ちゃん

20050314_023 あなたが少年だった頃。わたしが少女だった頃。少年として、少女として、確かにも曖昧にも幻想的にも刻まれた記憶というものがある。そして、そこにいつも寄り添うようにして横たわる闇というものがある。懐かしくもいとおしいそれらのことを思い出させるような、酒井駒子著『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)は、なんとも繊細で美しい佇まいの本である。絶妙な色づかいで描かれる、異国の匂いを放つ少年少女たち。思わずつんつんしたくなる頬は、ぷっくりとしている。そして、ほのかに染まってもいる。小さな瞳は、大人以上に憂いを含んで、何かを言葉少なに伝えてくるよう。多くを語らずとも、さまざまに何かを思わせる物語は、表題作「金曜日の砂糖ちゃん」と「草のオルガン」「夜と夜のあいだに」の3つを収録。

 まずは「金曜日の砂糖ちゃん」。あたたかな午後に眠る女の子“金曜日の砂糖ちゃん”を一目見ようと、いろいろなお客さんがやってくる物語。その中でもカマキリは、無防備な女の子を守ろうと鎌を振り上げて寄り添っている。じっと。ずっと。カマキリの思いは、狂おしいほどに切実だ。でも、女の子はそれを知らない。“金曜日の砂糖ちゃん”なんて呼ばれていることも、知らないのではないだろうか。カマキリの思いは一方通行。女の子の眠りとは、この先もずっと交わることはないのかも知れない。それでもきっと、女の子が去ってもずっと、カマキリは女の子を思っているに違いない。女の子を守ることが使命なのだと、思い続けるに違いない。カマキリの姿が美しく感じられたわたしは、振り上げられた鎌の先に、いとおしさを思わずにはいられなくなる。黒と白と、添えられた赤で描かれる絵は、目を奪い、魅せてくれる。

 続いて「草のオルガン」。これは、さみしいことやつまらないことを抱えた男の子が、知らない道をとおって帰る物語。いつもと同じ道をとおりたくなくなる。なんとなく寄り道をしたくなる。そういう思いは、きっと少年だった頃や少女だった頃に多くの人が持ち得たもの。それも、友だちを連れ立ってゆくのではなく、たった一人きりの帰り道でのこと。小石やら空き缶やら、そんなものを蹴飛ばしながら気を紛らせつつ、ふと目を止めてしまうような、“入るな危険”だとか“立ち入り禁止”なんていう領域は、なんとも魅力的に映るものだ。そこは、さっきまでいた場所とは時間の流れが違う。漂う雰囲気が違う。そわそわとどきどきと、うきうきとどきまぎと。少年と少女しかいられない空間のよう。けれど、時はあまりに残酷だから、遅かれ早かれ、現実に引き戻されてしまうもの。大人って狡い。

 最後に「夜と夜のあいだ」。これは、色気ある女の子の夜を描いた物語。小さな女の子が、見よう見まねで母親のすることに興味を持つ。そんな時期に、女の子誰もが経験するような夜の出来事。それを、幻想的な余韻を残していつまでもどこまでも続いてゆくように描かれているところが、なんとも素敵に心憎い。そういえば、わたしの場合は、サーモンピンクのマニキュアだったなぁ。重箱のように何段にもなった裁縫箱だったなぁ…除光液のツンとした匂いと、いくつもの縫い針をなくしたことで、あまりにも簡単に母に見つかってしまったけれど。特に、針を足の裏で踏むと、体の中に針があっという間に入り込んで、脳までめぐって死んでしまう…そんな恐ろしいことを言われて、ずいぶんと眠れぬ夜を過ごしたわたし。無垢な少女でありました。

4039652401金曜日の砂糖ちゃん (Luna Park Books)
酒井 駒子
偕成社 2003-10

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コメント

>針を足の裏で踏むと、体の中に針があっという間に入り込んで、脳までめぐって死んでしまう…

私もこれと同じことを母に言われてました。
いまだにこの言葉は恐怖で、1本でも針が少ないとわかると必死で探します。(笑)

投稿: ゆら | 2006.03.20 06:26

コメントありがとうございます。
ゆらさんも同じこと言われてたんですね~!
本当のことなのか、どうなのか…確実に受け継がれてゆく事柄なのでしょうか。
楽しかったり嬉しかったり、そういうことよりも強く記憶に刻まれてしまってる。
私も、針の数はつい気になってしまってます。もう大人になったのに。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2006.03.20 16:30

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