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2006.03.29

ぐらぐらの歯 きかんぼのちいちゃいいもうと その1

20050325_023 “きかんぼ”。それは、人にゆずったり負けたりするのを嫌がる、性質の激しい子どものこと。私たちはきっと、歳を重ねるたびに、学ぶことでそれを失ってゆく。余計な殻に自分を閉じこめて、少しずつそれを失ってゆく。そんなふうに私には思えてならない。無垢ゆえの思いは、ガチガチにもきちきちにもその力を弱め、私たちは“大人”と呼ばれる輪郭を顕わにしてゆくのだと。ドロシー・エドワーズ作、渡辺茂男訳、酒井駒子絵による『きかんぼのちいちゃいいもうと その1 ぐらぐらの歯』(福音館書店)を読みながら、私はそんなことを考えていた。ちいちゃいいもうとなりの論理は、しばしば心を揺さぶられるほどに、魅力的であるから。

 10もの物語はどれも、ちいちゃいいともうとのことを、姉の視点から描いている。姉の語る、ちいちゃいいもうとのきかんぼぶりは、愛情に満ちている。姉は、いもうとに憧れに似た思いをひそやかに抱いているようにも感じられる。いもうとよりも歳を重ねた姉は、その自由な我が侭さに、その身勝手な正直さに、自分の持ち得ないものを感じているように思われるのだ。だからこそ、読み手である私たちは、あたたかな心地でいもうとを見守るように、かつて持ち得ただろう思いを重ね合わせるように、物語を慈しむことができる。そして、語り手の言葉に寄り添うことができるのだろう。また、いとおしい気持ちにも、自然と包まれるのだろう。きかんぼなのが、無条件に可愛らしくなってくるほどに。

 私が好きだったのは、「おまつり」という物語。興奮してしまうと気難しくなってしまう、ちいちゃいいもうとの或る1日の出来事が描かれている。もちろんそれは、タイトルにもなっている“おまつり”に対しての興奮。この興奮。いもうとがその正体を把握しているのかどうかとなると、どうやら把握できていない様子。何かを察して、思わずわくわくそわそわする気持ちは、いやいやを言うことに繋がってしまう。けれど、きかんぼ。そこはもう、ちゃっかりしていたりするわけで。その後のおまつりでの事件も、周囲の心配をよそに、うまくまあるく立ち回ったりする。“ちいちゃな子どもに対して親切な大人”というものをよく知っている気がしてくる。それも憎いくらいに、可愛いのだ。

 それから、もう1つ。表題作である「ぐらぐらの歯」について。タイトルからして、そそられてくる響き。このタイトルでなかったら、きっと私はこの本を手に取ることもなかったはず。ちいちゃいいもうとの歯がぐらぐらになって歯医者に行く、というそのままの話なのだけれど、とてつもなくいとおしいのは、最後のいもうとの行動。それを促すのは、いもうとを優しく見守る周囲の大人たち。大人たちの言葉はやわらかであたたかで、きかんぼの気持ちをなんとも巧みに揺さぶるのだ。ただの優しさじゃない。ただのあたたかさでもない。心から向き合って、寄り添って、感じて、考えて。そうやっているからこその、優しさのように思えてくる。ちいちゃな子どもとしてでなく、対等な一人として接している気がするのだ。これこそ、素敵な大人。

4834021548ぐらぐらの歯―きかんぼのちいちゃいいもうと〈その1〉 (世界傑作童話シリーズ)
ドロシー エドワーズ
福音館書店 2005-11

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コメント

「ぐらぐらの歯」、ひと言で懐かしい・甘酸っぱいあの頃の感傷を呼び起こされます。なぜか大人になったときのことじゃない。ぐらぐらは大人もするんだけれど。

投稿: saheizi-inokori | 2006.04.04 10:55

saheizi-inokoriさん、コメントありがとうございます!
お久しぶりです。何かによって呼び起こされる記憶って、妙ないとおしさがありますよね。不思議な心地に包まれながら。

投稿: ましろ(saheizi-inokoriさんへ) | 2006.04.04 17:54

ましろさん、こんばんは。

「どうです?きかんぼうでしょ?」っていうお姉さんの語りが「どう?かわいいでしょ?」って聞こえてきます。

お父さんの花壇にどんぐりを植えたら、掘り返してしまったお父さんってどうなんでしょうね???「いいじゃないの!いじわる」って思ってしまいました。

投稿: なな | 2006.04.16 21:25

ななさん、コメント&TBありがとうございます!
確かに「どう?かわいいでしょ?」に聞こえますよね。
すごく自慢気でしたし(笑)
どんぐり。どのくらい育つのか興味があったのに、ちょっと残念だったりしました。
あれは、いじわるな展開でしたね。

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2006.04.16 22:16

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ぐらぐらの歯―きかんぼのちいちゃいいもうと〈その1〉 ドロシー エドワーズ, Dorothy Edwards, 渡辺 茂男, 酒井 駒子 私と私のきかんぼのちいちゃいいもうとが小さかった頃の話。 酒井駒子さんが挿絵担当です。これはもう借りるしかない!ちょうど子供が読めそうな本だったので読み聞かせの本にしたのです。 物語は私が語る「きかんぼのちいちゃいいもうと」の思い出。いもうとがどんなにわがままで、気難しい子供だったかを語ってます。途中いもうとの歯が生え変わるお話があるの... [続きを読む]

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