« 目覚めよと人魚は歌う | トップページ | 父 »

2006.03.01

暗号と名探偵

20050227_008 たちまち虜になる。見ぬふりをすればよかったものを。再び振り返ってしまったゆえに、私はもう、戻れぬ道を歩むしかない。児童書だと思って甘く見ていたことを思い知る、赤木かん子・編『Little Selections あなたのための小さな物語4 暗号と名探偵』(ポプラ社)。20冊以上もあるシリーズなので、おいしいところだけ都合よく食べてやれ、と思って借り出してきたのに、手に取った数冊をいつのまにか全部読んでしまっていた。侮れない。暗号と名探偵にスポットをあてて集めたこの短篇集は、コナン・ドイルの「踊る人形の謎」とエドガー・アラン・ポーの「黄金虫」。さまざまなミステリの傑作から代表的な暗号を紹介する、東京創元社の戸川安宣による「暗号とミステリ」を収録している。

 私が狙っていたおいしいところというのは、金原瑞人氏による訳の「黄金虫」。以前読んだ訳が古めかしい印象だったゆえ、新たな雰囲気で読みたかったのだ。が、そこは編集した人の意図。その言葉はなかなかに響くもので、ミステリに疎い私の心をそそるような文句を投げかけてくる。“暗号といえば「踊る人形」というくらい有名で、仕組みそのものは「黄金虫」と同じだが、そのユニークさではやはりこちらだろうと思う”そうかぁ。そうかぁ。そうなんだぁ…影響されやすい私はうんうんと頷き、本をはじめから読まねばならない衝動にかられてしまうわけだ。収録の順番からしたら、「踊る人形の謎」を読んでもなお、「黄金虫」は面白いに違いない。それなのに、“やはりこちらだろう”と言う編者。読まざるを得ないでしょう?これはやっぱり。

 まずはドイルの「踊る人形の謎」。もちろんと云うべき、シャーロック・ホームズなのだけれど、小さな頃に読んだ印象とはずいぶん違っていた。名探偵はなんとも呑気。読み手をじりじりと苛つかせるくらいに、依頼に対してのんびりと構えている。ワトスンよ、もっとせかしたまえ。そんな言葉を放ちたくなる。“どうもこの事件はほうっておきすぎたようだ”なんて言ってる場合じゃない。児童向けにまろやかにしているのか、はて。でも、見事な推理以外の人間的な部分が細やかに描かれているのは、読み物としたらすごく面白い。些細な心の動きが感じられる瞬間は、やはり快感である。ホームズの動向と事件のその後を冷静に書き留めるワトソン、という存在も大きく影響しているに違いない。ここでの暗号は、実にいい味。

 続いて、ポーの「黄金虫」。ミステリというジャンルを創りだした人は、やはりすごかった。そう思わざるを得ない、見事な暗号と推理と描写。限りなくシンプルな仕掛けで、不気味な余韻が心地よい。饒舌な推理が少しずつ色を変えてゆくのが、新たな日本語訳の魅力も加わって、思わず前のめりになって読ませる。これはいい。本当にいい。でも、正直に言うと、私は暗号の謎がさっぱり理解できなかった。きっと、ここには推理力よりも想像力が、より重要に感じられる。最後の戸川氏による「暗号とミステリ」は、江戸川乱歩の暗号分類が印象的。ミステリにおける暗号にとどまらず、そこにある人間の性質なるものを感じさせてくれるのが興味深い。日本人はやはりコツコツか。ゆえにちまちまか。でも、そこがいいのだ。

4591067602暗号と名探偵 (Little Selectionsあなたのための小さな物語)
赤木 かん子
ポプラ社 2001-04

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい!

|

« 目覚めよと人魚は歌う | トップページ | 父 »

74 その他の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

はじめまして(ですよね,確か)mamimixです。
某SNSサイトのコミュニティでご一緒させてもらってます。
このシリーズわたしも大好きなんですが,他に書評書かれてる人を見かけなかったんで,つい嬉しくてコメントを。
とてもいいですよね!
今わたしの手元には「父」と「自立」があります。
シリーズの1から読んでるんですけど,どれもはずれなくおもしろいです。
TBさせてください。
これからもどうぞよろしくお願いします。

投稿: mamimix | 2006.03.25 20:17

mamimixさん、コメント&TBありがとうございます!
はじめましてです。とっても嬉しいです。

このシリーズいいですよね!ホント、書評は見かけないですね。
なぜなんでしょう?おもしろい作品ばかりなのに。
mamimixさんは、1から読まれているんですか?
つまみ食いで恐縮です(笑)
こちらこそ、今後もよろしくお願い致します!

投稿: ましろ(mamimixさんへ) | 2006.03.25 22:38

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/8897498

この記事へのトラックバック一覧です: 暗号と名探偵:

» 「暗号と名探偵(Little Selections4)」 赤木かん子編 [今日何読んだ?どうだった??]
暗号と名探偵posted with 簡単リンクくん at 2005.10. 9コナン・ドイル〔ほか〕著ポプラ社 (2001.4)通常2-3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る [続きを読む]

受信: 2006.03.25 20:19

« 目覚めよと人魚は歌う | トップページ | 父 »