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2006.02.20

包帯クラブ

20050109_999 心に負った傷というのは見えにくい。見えにくいゆえに、その痛みや深さは自分自身にすら分かりづらい。痛みを目に見えるカタチとして認識すること。痛みを痛みとして見つめること。それは単なる自己満足に過ぎず、救いにも癒しにもならないかもしれない。けれど、生きづらさを感じながらも傷と向き合う若者たちを描いた、天童荒太・著『包帯クラブ』(ちくまプリマー新書)には、限られた範囲であっても、傷に対する真摯な葛藤が読み取ることができる。悲しみや怒りだけが傷をつくるのではない。何かを得るたびに何かを失う。それと共に増え続ける傷。あまりにもたくさんだから、あまりにもありふれているから、そんな理由の中にも傷はいくつも横たわっていることをひしひしと伝えてくる。

 物語は、ワラ(笑美子という名から)が病院の屋上でディノ(いでのたつや)と出会うことから始まる。ワラの手首に巻かれた包帯が風になびき、周囲の反応と同じくして、それをリスカだと思い込んで無責任でふざけた言葉を放つディノ。けれど、その軽妙な言葉の中に沈痛な響きを感じ取ったワラは、思いつきで言葉を返し、ディノの言葉のままに予備の包帯を差し出す。何もなかった空間にディノによって巻かれた包帯は、きれいに手当てされた新たな風景のように見える。その後、ワラは友だちのシオ(タンシオ、丹沢志緒美)が傷ついた場所に包帯を巻き、彼女の心を軽くする。そして、外の景色と心の中の風景が、繋がった瞬間を見るのだ。そんなきっかけから、新たな仲間と離れていた昔の仲間とが集い、「包帯クラブ」なるものが出来上がるわけである。

 この物語の中では、傷を受けた場所に包帯を巻くことで、心の痛みを目に見えるカタチで証のようなものとしている。包帯が巻かれた状態というのを、傷がしっかりと手当てされたものとして見て、“大したことじゃない”とか“気づかないふり”を貫いてきた痛みを確かなものとして自ら認めるのである。複雑な痛みを分かり易いものとして処理するそれは、ひどく安易な気がする。気休めだとか、自己暗示に過ぎないだとか。そんなもので救われる気がするなら、誰もが既にその方法を試みているだとか。包帯を巻くだけに留まらずに、実際に傷をつくる者に対しての侮辱じゃないか、なんてことも頭をよぎる。けれど、同時にそんな思いに囚われる自分の傲慢さを恥じさせる展開が物語には描かれているのだ。なんとも心憎いまでに。

 物語の「包帯クラブ」なるものは、ネット上で依頼を受けて、その痛みの風景を切り取ってフレームに収めるわけだが、さまざまな問題や横やりがその活動を邪魔する。少々お約束的な雰囲気も漂いつつ、今後の行方が心待ちになる。“人が受けた深い傷”というものに目を逸らさずに向き合うこと。どう痛みを感じるかということ。自分以外の誰かの痛みに寄り添うということ。自分にできることを、できる範囲でするということ。それぞれに環境の違う仲間たちのすれ違いや言動、行動にも興味がわく。それが、自分の将来だけに気を取られがちな時期(例えば受験なんぞに囚われた時期)にあること。どうせ何もできないからと、知らんぷりを決め込むような大人にとっては、なかなか疼く魅力がいっぱいな物語である。

4480687319包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)
天童 荒太
筑摩書房 2006-02-07

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コメント

ましろさん、こんにちは(*^-^*)
久々のコメントです。
「包帯クラブ」はそのタイトルと装丁に惹かれながら購入にいたっていません。
ましろさんのレビューを拝見してやっぱり読みたいなぁと沸々思い始めています。
近々読んでみますねー。

投稿: リサ | 2006.02.21 10:54

リサさん、コメントありがとうございます!
購入は実はもの凄く戸惑いました。
数ページめくって棚に戻して、数日後に再び迷いに迷ってやっと購入(笑)
読書中も何度も本を閉じつつ、読み終えてみたら、
たまらなくいとしい思いに包まれてましたよ。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2006.02.21 21:26

ましろさん、こんにちは♪
やっと読みましたよー。
どうして買うのをためらっていたのかしら?と思えるくらい抱きしめたくなるような本でした。
ましろさんの「たまらなくいとしい思い」に大きく
頷いた私です。
誰でも傷を抱えて生きていくものですが、
自身の傷と向き合う勇気を与えてくれますね。
なかなかその勇気を出すのが難しいものですけど…。

私の拙い感想をTBするのは恥ずかしいのですが(^-^;)TBさせてくださいね。

投稿: リサ | 2006.03.13 13:01

リサさん、コメント&TBありがとうございます!
とうとう読んだのですねー。
読み終えると、抱きしめたくなる気持ちになりますよね。ホントいとしい!
自分の傷と向き合うのはなかなか難しいですが、
共に歩もうという思いがわいてくる感じがしています。

投稿: ましろ(リサさんへ) | 2006.03.13 17:18

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