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2006.02.13

子供の領分

20051228_146 周囲や物事を鋭く見つめる少年たち。その目線から描かれる世界は、どこかいびつで残酷さを秘めている。ときには攻撃的な。ときには抑圧的な。子供すぎず、かといって大人でもない微妙さ。もどかしさも。吉行淳之介・著『子供の領分』(集英社文庫)には、そういう部分を感じさせる少年たちの物語が9つ収録されている。文体はシンプルで的確。余計な装飾で過剰になることなく紡がれている。透徹という言葉がぴったりしっくりくる描き方である。物語に引き込まれ魅力を感じるのは、きっとそのためであると思う。主に少年の主観による語りなのだが、なぜか視野の狭さは感じずに心地よく浸れる。

 表題作「子供の領分」は、家庭環境の違う2人の少年の物語。A少年の目から見たB少年の様子が描かれる。2人の間にはお互いに相容れない障壁があって、それでも一緒にいるということには1つの理由がある。けれど、お互いにそれを打ち明けて確認し合うほど、彼らは大人ではない。それゆえに、どちらかが強く出てしまったり方向性が狂って駆け引き合戦のようになってしまったりする。冷淡のようだが、それがとても愉快に映る。そもそも、自分と全く同じ環境にいる者などいないわけで、共に暮らす兄弟すら微妙に異なるに違いない。そう思って自分の周囲を見渡してみれば、どこかよく似た友人が揃っている事実が横たわっていることに気づく。その矛盾が可笑しい。

 次は「窓の中」。この物語は何より狭さが魅力的。隣り合う家ながら、入り口が離れているために交流少ない遠い隣人。母親代わりを務める若い女性と小さな弟。大学生の道夫は、廊下を通るたびに窓からその様子を観察する。夏場の開いた窓から見える、電灯に照らされた姿を頼りに。この物語の少年はひどく陰気で言葉少なながら、その存在感はとてつもなく大きい。1つの物事に対する強烈な没頭に惹きつけられて、道夫の興味が若い女性に向かっていることを薄れさせるくらいである。道夫が女性に近づくために用いた方法が、結果としてさらに関係を遠ざけることになった皮肉。それは、道夫の下心を見抜いていた少年が導いた密やかな仕返しなのかもしれない。

 もうひとつは「童謡」。中学時代に教科書で読んだことがある作品で、吉行淳之介の母を主人公にしたNHKの連続テレビ小説「あぐり」をよく見ていたこともあって(学校をさぼっていたのがバレバレだ…)、興味の度合いがかなり高かったのを覚えている。物語は重い病気に伏した少年が自分の衰えを目にし、認め、回復後に失った自分と新たな自分とを感じるまでを描いている。友人の言う“蒲団の国”へ行くことのできなかった少年。彼を見舞う友人の真意や、少年を咎めるように見る周囲の人々の姿が痛烈であり悲しくもある。少年が自分自身を認めるまでの過程が、細やかに丁寧に描かれているのが穏やかながらも苦しい。“ああ、この身はわたしじゃない”という言葉が、いつまでも胸に響いてくるいい作品である。

4087520420子供の領分 (集英社文庫)
吉行 淳之介
集英社 1993-09

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