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2006.02.10

いとしさの王国へ 文学的少女漫画讀本

20051117_085 少女漫画に文学を求めてはいけないのかもしれない。漫画と文学とは相容れないものだから。けれど、描かれる1コマの場面は言葉以上に何かを語り、読み手の心に寄り添う感情を伝えてくる。何気ないやりとりの中にある、印象深いフレーズ。少女が抱くさまざまな思い。憧れや恋。思春期だけに留まらない、女の子が求める世界がそこには描かれているのだ。そんな少女漫画を読んで育った作家たちが、その魅力を語るガイド的な本が『いとしさの王国へ 文学的少女漫画讀本』(マーブルトロン)である。作家陣は、角田光代、狗飼恭子、野中柊、三浦しをん、柴崎友香、加藤千恵、横森理香、桜井亜美、嶽本野ばら。懐かしい記憶を辿って、熱く真摯に語る少女漫画に対する思いが溢れている。少女漫画史も収録されていて興味深い。

 正直言ってしまうと、私はもの凄く漫画というものに疎い。読まずに育ったわけではないのだが、その量としたら、知識としたら、少ない部類に入るだろう。幼い頃、私の家では“漫画禁止令”なるものがあって、こそこそ隠れて読むのが漫画というものだったからである。友人が毎号かかさずに読む「りぼん」は私のひそやかな憧れで、初めて買って手にしたときは体中がぞぞっとした。嬉しかったのだ。とても。けれど、こそこそ読むものとしたら、「りぼん」はかさばるものだし、日に日に増えてゆく単行本を隠し通すことは難しい。ある日気づけば、すべての漫画本は捨てられていて、私の中に広がっていた夢のような世界も物語も、あまりにあっさりと消えてしまった。

 私が再び漫画を熱心に読み出したのは、ずいぶん後になってからだ。一人暮らし。10代も終わろうとしていた頃。手元に隠せるくらいしか読めなかった年月は、一瞬にして崩れ去った。読みたいものを読める喜び。その幸せを感じた。そういう状況の中では、必然的に追うように読むことになる。過ぎ去った時代を。名作とされる漫画を。好きな小説家がオススメする漫画を。自分自身の漫画に関する好みを知らないゆえに、雑食になる。読み方を知らない。目の前にあるものを、感じたままに捉えることができない。私はひたすらガイドブック的なものに頼って、後付けのような解説を鵜呑みにした。無知ゆえに信じた。盲目な読み手だったと思う。

 そんなふうだから、私が漫画と向き合いはじめたのは、たかだか数年のこと。この本で語られている懐かしさや熱き思いとは、全く縁のない時を過ごしてきた私である。当然、ここには未読作品ばかりが並んでいる。少女漫画的な感情とは、かつて少女だった者ならば馴染み深いに違いないのだけれど、心なしか、どことなく遠いもののようにも思えてしまう。一番多感な年頃に、描かれる少女と同じ頃に、それらを読むことができなかったというのは、何とも悔しいことである。少女たちの独特のルールだとか、些細なことに一喜一憂することだとか、アンビバレントな葛藤だとか、ひどく矛盾しながらも貫かれるそういう姿勢を、私は今になってようやく身近なものにしている。そんな気がしているのだ。

 ≪この本に登場する文学的少女漫画一覧≫
  
  ◎狗飼恭子選
   ・岡崎京子『愛の生活』角川書店☆
   ・岩館真理子『アリスにお願い』ヤングユー漫画文庫
   ・吉野朔実『少年は荒野をめざす』集英社コミックス版
   ・大島弓子『バナナブレッドのプディング』白泉社文庫☆
  
  ◎野中柊選
   ・一条ゆかり『砂の城』集英社コミックス版
   ・一条ゆかり『デザイナー』集英社文庫コミックス版☆
   ・くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』集英社コミックス版☆
  
  ◎三浦しをん選
   ・清水玲子『22XX』白泉社文庫
   ・清水玲子『秘密 トップ・シークレットー』ジェッツコミックス/白泉社
  
  ◎柴崎友香選
   ・高野文子『黄色い本』講談社アフタヌーンKCデラックス☆
   ・岩館真理子『まるでシャボン』マーガレットコミックス/集英社
   ・くらもちふさこ『Kiss+πr2』集英社文庫コミックス版☆
   ・くらもちふさこ『チープスリル』集英社コミックス版☆
   ・岩館真理子『きみは3丁目の月』マーガレットコミックス/集英社
   ・くらもちふさこ『天然コケコッコー』ヤングユーコミックス/集英社☆
  
  ◎加藤千恵選
   ・一条ゆかり『有閑倶楽部』集英社文庫コミック版☆
   ・かわかみじゅんこ『ワレワレハ』宝島社
   ・いくえみ綾『I LOVE HER』マーガレットコミックス/集英社☆
   ・矢沢あい『天使なんかじゃない』りぼんマスコットコミックス/集英社☆
  
  ◎横森理香選
   ・水木杏子原作、いがらしゆみこ『キャンディ・キャンディ』講談社コミックスなかよし
   
  ◎桜井亜美選
   ・岡崎京子『UNTITLED』角川書店☆
   ・岡崎京子『エンド・オブ・ザ・ワールド』フィールヤングコミックス/祥伝社☆
   ・岡崎京子『私は貴兄のオモチャなの』フィールコミックス/祥伝社☆
   ・岡崎京子『リバーズ・エッジ』宝島社☆
   ・岡崎京子『ヘルター・スケルター』祥伝社☆
   ・岡崎京子『pink』マガジンハウス☆
   
  ◎嶽本野ばら選
   ・大島弓子『いちご物語』白泉社文庫☆
   ・萩尾望都『ポーの一族』小学館文庫
   ・竹宮恵子『風と木の詩』白泉社文庫/全10巻
   ・高口里純『花のあすか組!』角川書店コミック版高口里純文庫
   ・和田慎二『スケバン刑事』白泉社文庫
   ・美内すずえ『ガラスの仮面』白泉社文庫☆
   
  少女漫画史解説より
   ・山本鈴美香『エースをねらえ!』マーガレットコミックス/集英社
   ・手塚治虫『リボンの騎士』講談社漫画文庫☆
   ・石森章太郎『竜神沼』サンコミックス/朝日ソノラマ
   ・水野英子『星のたてごと』講談社漫画文庫
   ・浦野千賀子『アタックNo.1』ホーム社漫画文庫
   ・土田よしこ『つる姫じゃ~!』マーガレットコミックス/集英社
   ・三原順『はみだしっ子』白泉社文庫
   ・池田理代子『ベルサイユのばら』集英社文庫コミックス版
   ・大和和紀『はいからさんが通る』講談社漫画文庫
   ・池田悦子原作、あしべゆうほ『悪魔の花嫁』秋田文庫
   ・細川智栄子あんど芙~みん『王家の紋章』秋田文庫
   ・山岸凉子『日出処の天子』白泉社文庫
   ・萩尾望都『トーマの心臓』小学館文庫
   ・青池保子『エロイカより愛をこめて』秋田文庫
   ・魔夜峰央『パタリロ!』白泉社文庫
   ・陸奥A子『すこしだけ片想い』りぼんマスコットコミックス/集英社
   ・田渕由美子『雪やこんこん』りぼんマスコットコミックス/集英社
   ・太刀掛秀子『なっちゃんの初恋』りぼんマスコットコミックス/集英社
   ・内田善美『空の色ににている』ぶ~けコミックス/集英社
   ・大島弓子『綿の国星』白泉社文庫☆
   ・くらもちふさこ『おしゃべり階段』集英社文庫コミックス版☆
   ・池野恋『ときめきトゥナイト』集英社文庫コミックス版☆
   ・松苗あけみ『純情クレイジーフルーツ』集英社文庫コミックス版
   ・吉田まゆみ『アイドルを探せ』講談社漫画文庫
   ・吉田秋生『BANANA FISH』小学館文庫☆
   ・紡木たく『ホットロード』集英社文庫コミック版☆
   ・日渡早紀『ぼくの地球を守って』白泉社文庫☆
   ・岩館真理子『子供はなんでも知っている』集英社文庫コミック版
   ・多田かおる『イタズラなKiss』マーガレットコミックス/集英社☆
   ・高野文子『高野文子作品集 絶対安全剃刀』白泉社☆
   ・さべあのま『はにほへといろは』ジェッツコミック/白泉社
   ・やまだ紫『しんきらり』青林堂(筑摩文庫)
   ・さくらももこ『ちびまる子ちゃん』りぼんマスコットコミックス/集英社☆
   ・佐々木倫子『動物のお医者さん』白泉社文庫☆
   ・神尾葉子『花より男子』マーガレットコミックス/集英社☆
   ・槇村さとる『おいしい関係』ヤングユー漫画文庫☆
   ・桜沢エリカ『メイキン・ハッピィ』祥伝社コミック文庫
   ・内田春菊『南くんの恋人』青林堂☆
   ・岡野玲子、夢枕獏原作『陰陽師』ジェッツコミックス/白泉社
   ・安野モヨコ『ハッピー・マニア』祥伝社コミックス文庫☆
   ・南Q太『さよならみどりちゃん』フィールコミックス/祥伝社☆
   ・やまだないと『ero・mara』イースト・プレス☆
   ・魚喃キリコ『blue』マガジンハウス☆
   ・おかざき真里『セックスのあとの男の子の汗はハチミツのにおいがする』祥伝社
   ・冬野さほ『twincle』マガジンハウス
   ・羽海野チカ『ハチミツとクローバー』集英社☆

 ☆印は、ましろ読了済み&読書中作品。

4123900518いとしさの王国へ―文学的少女漫画読本 (MARBLE BOOKS)
角田 光代
マーブルトロン 2003-05

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コメント

僕も漫画はほとんど読まなかったなあ。
もちろん全然読まなかったわけではないけれ
ど、思い付くものといえば、「ブラックジャック」
とか「ドカベン」など・・・。

さらに、漫画を読みたいとあまり思わなかっ
た。どういうわけか、興味が漫画には向かな
かった。

漫画と小説を比較すると、漫画は具体的な絵
によって表現されるので、著者がイメージする
ところを、より正確に伝えることはできるでしょ
う。ただし、読者の立場から考えると、イメージ
が既に固定されているために、自分で想像し
イメージを作り上げるという自由が制限される
てしまう。小説はその逆になるわけですね。

そう考えると、頭のトレーニングという観点で
判断すると、漫画よりも小説を読んだほうがい
いということになると思うのです。娯楽目的な
ら、どちらでもいいですけどね。

実際に、漫画だけ読んで、小説やその他の活
字になじんでいない人で、優秀だと思われる
人には、これまで会った記憶がありません。

「漫画禁止令」はちょっと行き過ぎのような気
もしますけど、だからといって意味のない命令
だとも思えないのです。時間は有限ですから。

僕も子供ができたら「漫画禁止令」を発令する
かもしれませんよ(笑)

投稿: デミアン | 2006.02.10 21:37

デミアンさん、コメントありがとうございます!

「漫画禁止令」発令しちゃいますか(笑)
そんなことをすると、いい歳になってから一気に鬱憤をはらすように、
漫画に目覚めてしまうかもしれませんよ。
私がそのいい例です。ふふ。

確かにイメージの固定される部分が、
漫画には多いかも知れませんね。
小説のように文字ばかりの方が、
豊かな創造性をもたらしてくれる気がします。

でも、この本で取り上げられている文学的少女漫画というのは、
青年向き&男性向きの漫画とは、趣が少々違うんです。
哲学的だったり、詩的だったり、言葉の1つ1つに重みがあるというか、
小説のように説明しすぎないゆえに、
いろんなことを感じさせてくれるんです。

今活躍する作家さんたちの意見は、
もう、それぞれすぎて好みも感じ方もバラバラなんですが、
漫画が漫画にとどまっていない、
ある意味小説を超える部分があることに気づかせてくれるんです。
こんなふうに思えるのは、私が大人になってから漫画を読み出したせいなのかも知れないけれど、
読んでみないことには、わからない。
それは、どんな本についても言えるのかな、と思ったりしました。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2006.02.10 23:46

「漫画禁止令」だけではなく、うちの家は「テレビドラマ禁止令」がありました。どっちも破っていました。少女漫画は美内すずえの「ガラスの仮面」ですね。飽きないのは、川原泉「大天使ミカエル」と思ってます。
ましろさんのブログをみて、「踊るナマズ」を今から読みます。

投稿: 早乙女 | 2006.02.11 23:22

早乙女さん、コメントありがとうございます。

「テレビドラマ禁止令」もあったんですか!
でも“破っていました”なんですね(笑)ふふ。
少女漫画史には、「ガラスの仮面」。はずせませんね。

「踊るマナズ」、早乙女さんがどう読まれるか、興味津々です。
文体の密度とか描かれる物語は、お好きなタイプなんじゃないかなと思うのですが。

投稿: ましろ(早乙女さんへ) | 2006.02.12 15:41

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