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2006.02.04

ちなつのハワイ

20050807_074 常々私が“行ってみたら、憂鬱なんて吹き飛んじゃうわ”という場所として認識しているのが、ハワイである。澄みきった青に、からっとした暖かさ。気候がいいの、暮らす人たちがいいの、何もかもがいいの。そんなふうに私にしきりに語るのは、留学経験のある一番身近な母である。それゆえ、踏みしめたこともない地に対して、“この世の楽園”的なイメージが固まりつつある。小さな頃からの刷り込みの賜物だ。そして、そんな勝手な想いをさらに強固にしてくれたのが、大島真寿美・著『ちなつのハワイ』(教育画劇)である。ここにはもしかしたら、不思議なパワーの源があるのか。ここに来れば、何もかもがやり直せるのか。ゆるゆると心地よく、でも切実に私を捕らえる何かがあるような気がしてしまった地、ハワイ。

 タイトルで想像できるとおり、物語の主人公はちなつ。小学生。夏休み、家族と一緒にハワイで過ごす数日を描いた物語である。いつもの夏ならば、おばあちゃんの家で過ごしていたこの時間。そこに、ちなつはおばあちゃんを見出している。これを伝えよう。あれを伝えよう。初めて見る景色や匂いを、帰ったらおばあちゃんに話そうと、ちなつは思うのだ。偶然か必然か、おばあちゃんはちなつの前に姿を現し、さまざまなことを教えてくれる。知らなかった過去。家族それぞれの気持ちを。また、いつのまにかほころんでしまっていた家族の絆を少しずつやわらげ、再び強く結びつけてくれるのだ。ハワイという地がそうさせたのか。それとも、たまたまこの地であらわになっただけなのか。物語はいろんな思いを読み手に巡らせる。

 この作品は、ジャンルとしたら児童書の類であるのだけれど、幼い日を懐かしむようになった年代でも充分に楽しめる。嘘がない率直でやわらかな言葉で描かれているからだろうか。著者の人柄なのだろうか。描かれたすべてが、瑞々しく繊細でいとおしいのだ。読み進めるうちに、私はすっかり主人公であるちなつが見た景色を、感じた匂いや気配を、考えた事柄を、自分のもののように思い始めていた。あぁもう、私はこの物語がまるごと全部、好きで好きでたまらないのだ。大げさにそう記してしまうほどに、とてつもなく私の中を埋めてゆく感情が確かに今、込み上げて溢れて響いている。そして、母が語るハワイへの想いと絡まり合ってゆっくりと溶け出してゆく。

 旅先でも勤勉な父親。封印した過去を持つ母親。勉強ばかりしている兄。売り言葉に買い言葉。その言葉をうのみにして来てしまった、ハワイ。それぞれの思いの行き違いとすれ違い。そんな物語の中で重要な意味合いを持つ、マハロという言葉。物語のそこかしこを満たしたように、私の中も自然と満たしてゆく、マハロ。この言葉の意味を、響きを、しっかり私の中に刻んでおかなくてはと思う。アロハよりも、あたたかに包み込む気配も全て。私のマハロも、もしやいつか届くかもしれないから。なんてことまで考えてしまう、いとおしさなのだ。この共鳴とシンクロは、きっと偶然じゃなく必然に違いない。私は、そう信じてみたいのだ。

 ちなみに“マハロ”は、どうやら「ありがとう」に近い意味があるようです。

4774606332ちなつのハワイ
大島 真寿美
教育画劇 2004-07

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