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2006.02.22

ピアノ調律師

20050223_011 陰影のないシンプルな線に惹かれて手に取った絵本、M・B・ゴフスタイン著、末盛千枝子訳『ピアノ調律師』(すえもりブックス)。あたたかでやわらかで優しくて、たまらくいとおしい物語は、純粋で懸命な子ども心を的確に捉えている。タイトルにさりげなく添えられた、原題の“TWO PIANO TUNERS”という文字にまで、愛情を感じずにはいられない。なんとも素敵な佇まいをした作品である。物語に響く調律の音。それを確かな正しさへと導く技術者の手、使い込まれたその手に馴染む数々の道具、それを熱心に見守る強い意志を持つ少女の目。厳しく誇りある仕事の世界と、人と人との信頼における関係性の中で、少女の決意が生まれもたらす力が、丁寧に描かれている。

 両親を亡くしたデビーは、2年前から祖父のピアノ調律師、ルーベン・ワインストックと暮らしている。2人の朝は、音楽と色とりどりの食器での朝食から始まる。ルーベン・ワインストックは、音楽を彼女に教え、調律の仕事に彼女を同行させる。彼の思惑では、彼女は音楽を奏でる演奏家に。もしくは、音楽の教師に、というところ。だが、彼の思うようにデビーのピアノは上達せず、彼女の興味は調律と修理にばかり向けられている。ルーベン・ワインストックの鍵盤をたたく音に、美しさを感じるデビーは、それが最も純粋な美しさを奏でる瞬間に心奪われるのだ。そして、思わず音を歌い始めて叱られたりもする。かわいい、ひたむきな女の子だ。

 物語は、調律の仕事の予定変更を、ルーベン・ワインストックがデビーに頼むことで展開を見せる。祖父の仕事を助けるためか、それとも自分の抑え切れぬ欲求のためか、デビーは見様見真似で調律を申し出る。古く錆びた道具を持ち出して。ピアノに向かうその目は、真剣そのものである。そこで周囲が気づく彼女の才能と一途な思い。小さな少女によって、様々なことを感じる大人たち。余計なことを描かない文章と、それとしっくり調和を見せる絵とは、喜びも哀しみも、愛をも読み手に伝えてくる。物語に流れるピアノの音色は、きっとデビーの抱く思いを響かせていたに違いない。或いは、音の持つ音色だけを無心に響かせていたのだろうか。

 最後のページには、ピアノの調律に必要な道具が紹介されている。チューニングハンマー、音叉、フェルトピッカー、キーレールスクリュードライバー、ウェッジ、チューニングピン、クランプ、キープライヤー。これらの道具を使い分けて音を正しく導く仕事。華やかに見える演奏家の演奏を間近に聴いてもなお、その仕事に一番の関心を寄せた少女の意志が、1つ1つの道具のかたちに重なって見える。笑顔で音叉を握る少女の絵は、この作品のどの絵よりも幸福に満ちている。夢中になれるものを持つ人、目標を確かにした人が、輝いて見えるのと同じように。こういう表情、そういえば私はしばらく忘れていたかもしれない…なんてことに気づきつつ。

4915777367ピアノ調律師
M.B. Goffstein 末盛 千枝子
すえもりブックス 2005-08

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コメント

表紙の絵と、ましろさんの文章で想像力が膨らみ、すっかり読んだ気になれました。
さて、癒されたところで、活字の世界に戻ってもう一踏ん張りしよ。

投稿: ゆうぴん | 2006.02.23 18:43

ゆうぴんさん、コメントありがとうございます!
読んだ気になってくださいましたか。嬉しいです。
活字を読んで、活字の世界に戻る…活字いっぱいですね。
どうか、その渦に呑まれないように。それとも呑まれるのが仕事かしら。

投稿: ましろ(ゆうぴんさんへ) | 2006.02.23 19:32

ましろさん、こんにちは!
TBとコメントありがとうございました。

本当に調律の道具1つ1つがいとおしくなってしまいますね。
今からでもなれるものなら、私も調律師になりたくなっちゃいますよーー。
デビーの一途な思いと最後の笑顔が眩しいです。
やっぱり目標が定まってる人って輝きが違いますよね。

ゴフスタイン、いいですね。
少しずつ読んでいきたくなりました。
大切に大切に少しずつ、が似合いそうですね。^^

投稿: 四季 | 2009.03.26 06:24

四季さん、こちらこそTB&コメントありがとうございました!

そうですよね。出てくる道具は本当にいとおしい。
この本に小さな頃に出会っていたら、
調律師目指していたかもしれません。
デビーの笑顔は、すっごくいいですよね!
目標を持つ人だからこそのあの笑みなんでしょうか。
ああ、わたしにはいつかあんなふうに笑えるのかしら?
笑えるとよいなーって、こころから思います。

ゴフスタイン、はまったと言いつつ、2冊しか読んでいなかったです(苦笑)
こういう絵本はときどき手にとって読み返して、大切にしたいですよね。
と言いつつ、図書館派(笑)

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2009.03.26 06:32

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