« 「ビミョーな未来」をどう生きるか | トップページ | 目覚めよと人魚は歌う »

2006.02.27

ゴールディーのお人形

20051109_44031 じわじわと心をあたたかにする、私が切実に憧れを抱いている“ものつくるひと”の物語である、M.B.ゴフスタイン著、末盛千枝子訳『ゴールディーのお人形』(すえもりブックス)。原題は、“Goldie the Dollmaker”。ゴフスタインの作品を読むのは、この作品で2冊目。“自分の信じる何かを作り出すために働く人”というのが、どうやら著者の作品のテーマのよう。人生における価値のあること、本当の意味での幸せ。それは、ひたむきに自分を捧げることのできる何かがあること。そして、そうやって生きる人の黙々と働く姿には、美しさと尊さが満ち溢れていること。そんな思いに導かれた著者のものづくりに対する思いは、物語を通じて読み手にやわらかに語りかけてくる。あなたには、自分を信じる何かがありますか?と。

 物語の主人公は、両親の亡き後、一人で暮らす女の子、ゴールディー・ローゼンツヴァイク。彼女は、小さな木の人形を作る仕事をしている。父親がしていたように人形を彫り、母親がしていたように人形を色付けする。1つ1つ丹精込めて作られる人形は、彼女の強いこだわりとぬくもりを感じるものだ。その姿勢は、彼女を取り巻く人々や人形を求める人々に、確かに伝わっているように感じられる。彼女の作る人形が多くの人に求められるのは、きっとそんな理由からなのだろう。けれど、彼女自身は懸命に自分のやるべき仕事している、という意識しかどうやらないらしい。物語の後半部分まで読み進めると、そんな思いが浮かんでくる。彼女が、はじめから自分の人形作りへの確固たる自信を持っていたら、物語は違ったものになっていただろう。

 街へ出たゴールディーは、人形を卸しているお気に入りの店で、小さな美しいランプとめぐり会う。高価な値のついた売れ残りのその品は、ゴールディーを待っていたように佇んでいたのだ。彼女は、店主の心遣いもあって、そのランプを自分のものにするが、人形を入れる木箱を作ってくれているオームスに“こんなに高いものを買うなんて、とても正気とは思えない”と言われてしまう。彼女の高揚した気分は、そこで一気に消える。彼女は、ランプを完全に自分の物にするには、生活がどんなに厳しいものになるのか、自分の感じた美しさに対する自信のなさなど、横たわる現実に憂鬱になってしまう。こんな物語展開には、芸術と生活の根本にあるものを意識させられてしまう。生活の豊かさの上に成り立つ心の余裕が、美を感じるのではないか、なんていう。

 ゴールディーの落ち込みが変化するのは、彼女と同じ“ものつくるひと”の精神。物語がこの後どう展開するのかは書かないが、なるほどと頷かせる結末を導いている。ゴフスタインという人物が紡ぐ物語の魅力は、まさにこういうところにあるのだなと感じさせる。冒頭に書いたような著者の思いは、物語に確かに息づいている。ものをつくる喜び、幸せ。それに魅了される者へも伝わる、喜び、幸せ。それは、ときに作り手以上に、或いは、作り手を遥かにこえて、人々の心の中を埋めてゆくのだろう。あたたかに。寄り添うように。自分を信じる何かについて、“コレ”と言うことができなくとも、もやもやしたものの中には、何かが確かにあるのだな。きっと、それは何よりも強く、生きる支えになっている。そんなことを思わせる物語である。

4915777359ゴールディーのお人形
M.B. Goffstein 末盛 千枝子
すえもりブックス 2003-10

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログ←素敵ブログ、いっぱい!

|

« 「ビミョーな未来」をどう生きるか | トップページ | 目覚めよと人魚は歌う »

58 海外作家の本(アメリカ)」カテゴリの記事

69 アート・絵本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/8861889

この記事へのトラックバック一覧です: ゴールディーのお人形:

« 「ビミョーな未来」をどう生きるか | トップページ | 目覚めよと人魚は歌う »